急追


よくまあこの女も僕もこんな関係続けてきたと思う。昔の女、いや、ただの性欲の捌け口のために引っ掛けた女の一人だ。名前とは違う。
しかし数年も連絡がなかった男から来てほしい、と頼まれてホイホイ上がり込むだろうか?ましてや股なんか普通開くか?まあその女を抱いた僕も大概だが…。

「零?どこ行くの?」

「シャワー」

「私も「ごめん」」

暫く一人になりたくてしかたなかった。寂しい、それだけの理由で僕は名前を裏切った。通りかかった玄関に折れたキーカードにシャトーのワインを見つけて背筋が凍る。彼女はいた、確かにこの場所に来ていた。このシャトーが何よりの証拠だ。折れたキーカードを拾い、そっと握りしめる。これはきっと彼女なりの別れの挨拶だろう。足取りが重くなるが、あの女に触られた身体をどうしても洗いたくて一歩、また一歩踏みしめるように歩く。僕は頭の中で言い訳を考えて泣きたくなった。





あの女にはさっさと帰ってもらい、今は彼女に連絡をしている。いいようにしてやれば気分を良くし、上機嫌で趣味の悪い靴を履いて出ていった。
布団にファブリーズをかけて僕は謝りに彼女の家へ向かった。車を運転しても頭にあるのは名前のことばかりで、ほかのことなんか考えている余裕なんてない。信号が変わった。





チャイムを押しても出ない、というか人の気配がしない。多分帰ってきてないんだろう。名前の家の鍵は持っているが、どうにも使う気にはならなかった。僕はドアの前に腰を下ろす。
それから大体一時間半ぐらいたった頃にコツン、とヒールが鳴る音がした。顔を上げ、音の鳴るほうへ顔を向けると心底嫌そうな顔をした名前がいる。
立ち上がって駆け寄ろうとするが、靴を僕の方に脱ぎ捨ててものすごい速さで階段を駆け下り右へ曲がって行った。すかさず追いかけるが途中で見失い視線を足に向けて一呼吸、落ち着け多分そう遠くへは行ってないはず。方向からして彼女と仲のいい友人、相澤唯華を頼っていないのは確かだ。
ふと、赤いものが道路に点々としているに気付く。多分血だろう。僕はその血痕を辿り、工藤邸の前までやって来た。おかしなことにここで血痕が途切れている。まあ、物は試しだ。この工藤邸に下宿している胡散臭い大学院生沖矢昴に聞いてみることにした。


  
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