乱反射するカラフルなライトと軽快で騒がしいディスコサウンドが溢れる室内で、ふわふわと機嫌良く舞うシルバーピンクの長い髪。ここに訪れるのは今日で二度目だが、以前とはあまりにも様子の異なる部屋の惨状に、まるで別次元に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥りつつある。灰谷竜胆はソファにどっしりと深く腰をかけながら、目の前で酒瓶片手に踊り狂う酒乱共を眺め、深く深くため息を吐いた。

 事の始まりは、この家の主人であるなまえが「私だってたまにはクラブとか行きたーい」などと珍しく不満を漏らしたせいだ。なまえは外出許可が下りなければ基本この家から出られない、いわば軟禁状態にある。その割にいつもニコニコと楽しそうに生きているイメージだが、何をするにも何処へ行くにも組織の男(主に三途春千夜とかいうヤク中イカれ反社野郎)を連れ歩かなければいけないというのは当然ストレスもかかるだろう。
 しかし、もし仮になまえのクラブ行きが許されたとして、付き人に三途などが指名されれば、どうだろうか。エロい目つきでなまえに言い寄る男たちの姿を見た瞬間、三途の脳が破壊されるなどしてかなり面白いことになりそうではある。まあそもそもあの首領様が許すはずねーなって事でこの【おうちdeクラブ☆ザ・パーリィナイト】が開催されているわけだ。ちなみになまえが命名したのだが、このクソダサいネーミングを侮ることなかれ。何たってリビング一面ガラス張りのダイレクトビューから覗く東京の夜景は言うまでもなく完璧であるし、天井にはミラーボールなんかも設置されており割と本格的な仕様だ。カウンターに並べられたボトルはどれも数十万円は下らない代物ばかり。なまえいわく、全てここには居ない首領様が下ろしてくれたらしい。
 この梵天とかいう組織の実権を握っているのって、実はなまえなんじゃないかと竜胆は疑った。金の管理を任されている九井は今頃発狂している頃だろうか。このパーティに呼ばれてもいないのがまたウケる。なまえもなにかを察したのだろう。

 そしてなまえは何でも形から入りたがるタチらしい。「どうせなら六本木のクラブとかにいるイケてる女っぽくなりたいな〜」という要望を兄の蘭が面白がり、始まってしまった劇的ビフォー・アフター。昼までなめらかな栗色だったなまえの髪は、蘭行きつけのサロンの店員を部屋に呼びつけたことにより最終的にあんな色になってしまった。竜胆が好んでいた彼女の清楚さと無垢さとパンピ感は完全に失われ、派手な髪色に合わせてメイクも服装もがらりと変えてみせたなまえは、そりゃあもう、夜の街を歩いていたらひっきりなしにスカウトが寄ってくるレベルのイケイケ女になってしまった。
 そうはいいつつ竜胆も、露出度の高い衣服から溢れる素晴らしいおっぱいが身体の動きに合わせてぶるんぶるんと揺れるたびに「兄貴の服選びのセンスヤベー。やっぱいちばん信頼できるわ」などと手のひらを返したくもなるわけだし、似合わないなんてまずあり得ないのだから褒める以外の道はない。蘭と二人並ぶ姿は、清楚派の竜胆としてはまことに複雑な心境ではあるものの、歩くフォトジェニック(笑)と言っても過言ではない。
 
 まあ、それはこの二人があくまで"黙っていれば"の話だが。

「つーかなまえちゃんさあ、とうとう三途とヤったってマジ?」
「……え?! 蘭くんなんでそのこと知ってるの!やば!」
「いや三途がある日歯抜けになっててクッソウケて弄ったあと理由聞いたら白状した。つーかマジかよやべ〜。三途のちんぽどうだった?」
「えー?…………んふふ、えへ、ひみつー」
「ハ? かわい。じゃあ俺もヤらせて?」
「ちょ、蘭くんふともも撫でちゃやだー」
「え? じゃあまんこナデナデしてもいい?」
「あはは〜それはもっとだめなやつだ〜」

 このクソみたいな会話を聞けばもうおわかりかと思うが、これはかなり良くない状況だ。いよいよなまえの貞操観念が壊れ始めた。なまえが酔っているのは明らかだが、蘭はほんのちょびーっとお酒が回ってるだけでほぼシラフだと竜胆は知っている。蘭は元より倫理観が壊れている人なので、シラフでも平気でそーいうことを言っちゃうのだ。なまえの腰を抱きながらソファーにやってきた蘭は、なまえを竜胆との間に挟んで座らせ、極端に短いスカートからむき出しの太腿を無遠慮に撫でている。なまえも蘭の手を無碍に払ったりしないし、はっきり言ってやりたい放題だ。蘭がその気になれば、十秒で即も否めない。隣でおっ始められたらたまったものではないので、竜胆は内心ヒヤヒヤしている。

「てかなまえちゃんが三途とヤれたのしょーみ俺のおかげじゃん? だから俺にもご褒美あってよくね?」
「んー……でもたしかにその説はある」
「だろ? だからそのデカいおっぱいに俺のちんこ挟んでも良い?」
「んー……でもそれはダメな気がする」
「気がするじゃなくてダメだよ馬鹿」
「オイ竜胆。今イイとこなんだから邪魔すんな」
「でも兄貴ほんとヤベェって。この部屋でそれやんのはマジ命に関わる」

 この場で冷静、というかマトモなのは自分だけなのだと竜胆は悟った。蘭が本気でなまえにちょっかいをかけた時点で、まず間違いなく命はない。そもそも今のこの状況が許されているのかも正直微妙な所だ。何せ、無数のカメラがこの酷い惨状を見ている。その先に"居る"ひとを、蘭も知らないわけではないはずなのだが。
 三途が歯抜けになる程度で済んだのは、なまえが単に三途贔屓だからという理由に他ならない。なまえが三途とヤったという噂は幹部たちの間にも出回っているし、そもそも、そうなるように仕向けた人こそ、ここにいる灰谷蘭だった。なまえが「三途を誘惑するにはどうしたら良いか」という質問をまさかの蘭に投げかけてしまったせいで、ほぼ実践形式でなまえはその方法を学んだ。ちなみにこの件で、蘭は首領直々に肋骨を何本かやられている。やっと完治したばかりだというのに、まるで懲りてないからすごい男だ。イカれているとも言う。
 なまえは随分前から三途のことをいたく気に入っている様子で、会えばいつもその話をしてきた。蘭も竜胆も胸糞悪い男の話を延々と聞かされて正直鬱陶しいというか殺したくなる(もちろん三途を)のだが、三途の話をしているなまえは何というかもう、純真無垢な天使そのもので、人の心が無いと言われている蘭ですら「何この赤チャン」とバブみを感じてしまう程だった。

「つーかなんで三途〜? アイツただのヤクチュウヤクザだぜ? 薬キメてあばあばしながら人殺してる動画撮ったけどマジで怖くてキモくて見てらんねーもん。なまえちゃんぜってー泣いちゃうよ?見る?」
「うーん……でも春千夜くん何だかんだやさしいし、お掃除上手だし、マック買ってきてくれるし、ドライヤーしてくれるし、三分ですぐ折電くれるし、あとえっちもすごい良かったし……とにかくだいすきなの」
「ほぼパシリと変わんねー扱いなのにこんなに悔しいのなんで竜胆」
「……いや知らねー」

 なまえはソファの上で膝を小さく折り曲げて、男に思いを馳せるように俯いた。その仕草は純っぽくて可愛いけれど、何せ短いスカートからエロいパンツが丸見えなので台無しである。蘭は相変わらずなまえの太腿をいやらしく撫でているし、なまえの話なんか多分ほとんど聞いちゃいない。頭では「こっからどうやってなまえを犯すかな〜」とかなんとか考えてるに違いない。竜胆には兄の考えが透けて見えていた。

「……うーん、なんか春千夜くんに電話したくなってきちゃった」
「ん。じゃあなまえちゃんスマホ貸してみ」
「なまえ、兄貴にぜってー渡すなよ。折られんぞ」
「言うなよ竜胆」

 さて、いよいよ収拾がつかなくなってきた。竜胆は正直もう帰りたくて堪らなかったが、蘭は納得しないだろう。幹部でなまえを気に入っている奴は多いが、蘭の執着は常軌を逸している。それはなまえが三途にご執心だという事実を含めた上で、恐らく、手に入らないものを無理矢理奪ってやるのが愉しいと思っているのだ。モラルのカケラもない。
 竜胆は胸ポケットから出した煙草に火をつけて、ため息と共にそれを吐き出した。ナッツの盛られていた器を灰皿代わりにして、あー早くどうにかなんねーかなと天を仰ぐ。何やら横がごそごそと騒がしいが、あんまり言っても兄の機嫌が悪くなったらそれこそヤバい。これ以上面倒なことにならなきゃ良いと思いながら、竜胆は気配を消そうとした。

「っ、あ、だめ、蘭くん」

 ……いや、ほんとにダメだろ。なまえの艶めかしい声が聞こえた瞬間、竜胆はガンッとソファー前のローテーブルに足をぶつけた。とうとうおっ始めたかと思い恐る恐る横目で様子を見やると、なまえを膝上に乗せた蘭がゴソゴソとなまえの服の中を弄っていた。ああいよいよ蘭の方が痺れを切らしたらしい。大きく開いた胸元から本来あるはずのない男の手が見え隠れしている。兄貴は本当になまえのおっぱいが好きだなあ。なんて呑気に考えている場合ではない。

「んー? なに、聞こえない」
「ぁ、……だめ、さわっちゃやだ」
「目の前にこんなおっぱいあったら触らなきゃ逆に失礼だろ?」
「おい、兄貴、マジで」

 蘭の謎理論に押されつつあるなまえはロクに抵抗出来ていない。蘭という男相手に油断しすぎている挙句、酒が回って力が入らないのだろう。ふにゃふにゃとされるがままのなまえをみて、竜胆がいよいよ本気で止めようと立ち上がった。その時だ。



「テメェら死ぬ覚悟は出来てんだろうな」



 バチィ!!!!!とけたたましく鳴る音と共に、部屋の照明がパッと明るくなる。「オイこらアレクサこのウルセェ音楽止めろそんで今すぐ死ね」と機械に対してすら容赦なく暴言を吐く男に対して、それは意外にもすん、と素直に反応した。なまえの家にあるAIが何故この男の声に従うのかは良くわからないが、竜胆は今日初めてこの三途春千夜という男を1ミリだけ尊敬した。

「あー出やがったよクソパシリ」
「クソ谷殺す」

 爆音で鳴り響いていた音楽のせいで、玄関が開いた音に誰も気づかなかったのだ。三途はズカズカと勢いよくソファーに歩みより、蘭の膝上できょとんとしているなまえの身体ごと腕を引いて床に落っことした。うわ、と落ちた拍子に膝をついたなまえは、床に手をついた状態で首だけを持ち上げて、猫のように三途の顔を見上げた。

「あ……………春千夜くんだ!」
「オイなまえ馬鹿テメェ勝手にこんな髪にしやがってマイキーがカンカンなんだよつーか部屋きったねぇし煙草くせーし酒くせーしクソエロい格好しやがってマジでなにやってくれてやがるカス谷クソ野郎ブチ殺す」
「うわーひと息キモ」
「いいかなまえ。コイツらに容赦すんなよ?ひとこと「殺せ」とマイキーに言えばいい。そしたら奴等は死ぬ。んでテメェはそれ以上喋んな。あとは俺がなんとかする」
「えー」
「えーじゃねえんだよクソアマ。俺がどんな思いしてここ来たかわかってんのかあぁ"?マイキーに「今から三分でなまえのところへ行け。でないとお前を殺す」って理不尽極まりない殺害予告ラインきてまじで車飛ばして三分でここまできた俺の気持ちがわかるかテメェに」
「三途マジでキモすぎてワロタ」
「いいかなまえ。ひと思いにアイツを殺せ。でないと俺が死ぬぞ。いいのかテメェそれで」
「え?! なんで春千夜くんが死ぬの?!」

 いやだいやだと喚くなまえを足蹴にする三途。クソ面白くなさそうに眉を顰めて足を組んでソファに居座る兄。そして竜胆はいよいよ面倒くさくなり、その場を後にしようと玄関の方に足を進めたのだが、三途の手が竜胆の肩を掴み、それを遮る。

「オイコラまだ話終わってねえぞ」
「……あ? いいじゃん俺は。後は二人でお楽しみだろ」
「ざけんな。部屋めちゃくちゃにしやがって。つーかそもそもこの家は禁煙なんだよ。あとテメェのクソ兄貴どうにかしろマジで」
「いーじゃん。お前このままそこでなまえとセックスしろよ。俺もあとで混ざるし」
「兄貴頼むややこしくなるから黙って」

 地獄すぎる絵図だ。三途が来たことにより事態は収束するかと思いきや、余計に拗れそうな感じである。竜胆の肩を乱暴に突き飛ばして蘭の元に向かう三途の表情は、筆舌に尽くし難いものがあった。よりによって蘭がなまえのおっぱいを揉んでいるときに現れるなんて、間が悪すぎる。取っ組み合いの喧嘩にでもなれば既にめちゃくちゃな部屋がもっと荒れるのは必至で、三人纏めて首領から痛いお仕置きを受けるに決まっている。いやそもそもお仕置きで済むのかこれ?
 そして今、その最悪の自体を防ぐことができるのは、ただ一人しかいない。竜胆はなまえを説得すべくバッ、と床に目を向けたが、すでにそこになまえの姿はなかった。なまえは蘭の前に仁王立ちする三途の腰に後ろから纏わりついて、コンコンと楽しそうに足踏みをしている。小さな足にぴったりと収まるオニューのルブタン。これも雰囲気を出すためになまえが履きたいと言って、蘭がプレゼントしたものだ。細いヒールでフローリングが傷だらけになるのも、とくに気にならないらしい。

「ねーねーねーはるちよくーん」

 機嫌の良さそうな甘ったるい声が、この殺伐とした部屋にひとり浮いていた。身長差が埋まった分、いつもより近づいた顔の距離で、三途は上体を捻って振り向く。

「……ア? いいからテメェはそこで転がって……」

 その先に、続く言葉はなかった。なまえが三途のスーツの襟を引き寄せて、唇に噛み付いたのだ。蘭、三途、竜胆の三人が呆気に取られている中、なまえだけは楽しそうにむふむふと笑いながら三途の唇を美味しそうに食べている。ちゅ、ちゅ、と愛らしい音を立てながらやっとなまえが三途を解放すると、それはそれはひどく蕩けた目で、真っ直ぐに三途だけを見つめていた。

「はるちよくんおかえりのちゅー」

 えへへ、と目を細めて笑うなまえ。
 竜胆はその時、ブチィ、と何かが切れる音を確かに聞いた。

「………………テメェ」
「えーなんでおこってんの」

 いみわかんなーい! とはしゃぐなまえに、もう誰も着いていけなかった。あの蘭でさえ固まっているし、竜胆はもう思考すら放棄している。生粋のヤクザ共がバチバチと火花を散らしている中で、なまえはただ一人マイペースに、自分のやりたいことをやり遂げたのだと満足気である。──やはりこの女、大物だ。流石は首領の幼馴染というだけはある。最初から最後まで楽しいのも、この中できっとなまえだけだっただろう。

 とはいえ、そんな女の世話役を任されている男は、蘭とも竜胆とも一味違った反応をみせた。三途はびきびきと額に青筋を立てながら、長い長い溜息を吐いたあと、なまえの方に今度は身体ごと振り返る。

「…………よう、なまえチャン。おかえりのチューはな、こうやんだよ」

 ぐっ、となまえの手首と腰を引き寄せて、バランスを崩したなまえをそのままソファーにいる蘭の膝上に投げ落とした。三途はなまえの背を蘭に押し付けたまま、片手でなまえの顎を掴み、そのまま顔を傾けて口を塞いだ。なまえがしたのとは比べものにならないくらい、荒く激しく、いやらしいキスだ。なまえは蘭の膝上で息苦しさにもがきながらも、縋るように三途の服を両手で掴んで、その口付けに応えようとしている。三途は勝ち誇ったように笑い、なまえの後ろに居る蘭に目配せをした。竜胆はまた、ブチィ、と何かがキレる音を聞いた気がした。

「…………あ"?なにこれどーいうこと竜胆」
「……いや俺に聞くなよ」

 生々しい水音と爛れた息遣いだけが深夜二時のリビングを包み込む。見ているこちらが胸焼けするほど長く激しいエロキスだ。なまえはうっとりとした表情で喘いでいるし、三途も満更ではないのがなおムカつく。つーか結局一番イカレてるのはこの二人なんだと竜胆は改めて理解した。イカレたもの同士、どうやら仲良くやっているらしい。それは、ほつれた糸が何重にも絡まり合って出来たような、歪なマルに見えた。

 なまえが腰砕けになってやっと、二人の舌が離れていく。つーか兄貴はよく我慢出来たなと竜胆は思った。なまえひとつ挟んでいるとはいえ三途に迫られるような形になっていたので、そのあまりに悍ましい光景にもしかしたら気をやったのかもしれない。竜胆は蘭が心配になりなまえの後ろを覗き込むと、その瞬間、誰かのスマホがけたたましい音を立てて震えた。
 はっ!と目をかっ開いた蘭は、慌てて胸ポケットからそれを取り出す。どうやら本当に気を失っていたらしい。

「……おい、首領サマからお呼び出しだぞ」
「ははっ! ザマァ!! !!クソ谷死ね!」
「いやてめーもだよ三途」
「………………ア?」

 蘭は皆の方へくる、とスマホの画面を向ける。電話じゃなくラインらしい。なんつー通知音だとツッコミたくなったが、えらく殺風景な画面には「三途、蘭、竜胆」とだけ書いてある。つまりこれは死刑宣告だ。

「いやなんでだよマイキー!」
「おかえりのチューは流石にキモかったんじゃね?マジ俺ガチで失神してたもん」
「アァ"?なまえの許可なく乳揉んでたヤツは随分とヨユーだな? 真っ先に死ぬこと確定なのにな?」
「は? 無責任中出しセックス奴がイキがんなよ」
「ハァ? むしろそれはイキがっていいだろうが」
「殺す」
「お前をな」

 蘭と三途は延々と互いを貶し合い、いがみ合っている。そんなことをしても状況が変わるわけじゃないのに、と竜胆は諦めモードでソファに座った。同じくソファに放られたなまえは竜胆の服をくいくいと掴み、不思議そうな面持ちで竜胆の顔を覗いている。

「ねーねーみんなマイキーのとこいくの?」
「うん。シバかれにな」
「なんで?」
「………………うーん?」

 この子酔ってるからこんなに馬鹿なのか? それともシラフでもこれなのか? なまえという女をまだイマイチ良く把握できていない竜胆は、ウンウンと頭を抱えざるを得なかった。なまえに対して何もしていない自分だけはせめて許されたい気持ちだが、連帯責任で歯の二、三本はイカれると予想している。……いや本当なんで……? セラミックってどんだけ費用かかんだろ。もはや諦めモードの竜胆。そして相変わらず現実逃避でもするかのようにギャンギャンと吠え合うイカレ野郎二人組。

「じゃあわたしも一緒に行きたいな」

 そんなカオスな空間に、ぽつんと落とされた呑気な声。
 そしてがらりと空気が変わり、三人の視線が一気に一つの点へと集まる。

「「「おう」」」

 出会ってから今日に至るまで。
 初めて三人の意見が合致した瞬間であった。

 いやいや何ともおめでたい日だねぇと、なまえはメタリック・ピンクのシャンパンボトルを鷲掴み、ぐひぐびと楽しそうに煽って笑った。



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