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しむ

とにかくしゃちが好き。HQの最推しは影山飛雄。
「影山飛雄」という横断幕を発注するか否かが今の悩み。

黒尾と木兎



「そりゃあ、ちんこをまんこに突っ込むのがセックスだろ!!」

 ふふん!と鼻息荒く最高にお下品な発言を繰り出した木兎さんに、私の中にある常識というものはここでは通用しないのだと悟った。

 ひどい、ひどすぎる。
 ただでさえわけがわからないことだらけなのに、先輩のせいで余計に思考が駄目になった。この人と二人じゃなくて良かったと思う反面、この空間にはもう一人いるという状況が、私のメンタルを窮地に追い込んでいる。

「……それでなまえちゃん、どうしよっか」
「わたしにきかないでください、黒尾さん」
「じゃー俺がしてもいい?!」
「いやです!なんでそうなるんですか!ぜったいにやです!木兎さんだけはいや!」
「3回もイヤって言われた!!!」

 目をキラキラさせて迫ってくる木兎さんの胸を、両腕で目一杯押し返す。動くたびにギシギシと嫌な音が響くこの空間、本当に最悪だ。
 背後で黒尾さんが吹き出す音が聞こえた。この人は明らかにこの状況を面白がっている。たぶん、ここに居て不安なのはわたし一人だけだ。……そりゃあ、まあ、そうかも。男の人は気持ちがなくたって誰とでもそういうことができると言うから。顔が多少アレでもおっぱいとケツさえ良ければ抱けると、この前男友達が喋っているのを聞いた。最低すぎて言葉も出なかった。
 もちろん女の子でも性欲旺盛な子はいるけど、男の子に比べたらその割合は低い。わたしは好きな男の子意外に抱かれたことはないし、抱かれたいとも思わない。ましてや他校の先輩、それも部活の合宿で数度顔を合わせた程度の関係で、身体を明け渡してしまえるほど、男の人に飢えてもいない。

 ただ、この忌々しい空間がこの世の倫理を破壊する。「セックスしないと出られない部屋」において、そんな意識は全くの無意味だ。神様って本当に無慈悲。片想い同士の相手だったらまだしも、どうしてわたしとこの二人をこの部屋に呼んだんだろう。二人とやりたいって女の子、絶対他にいたと思う。わざわざわたしを連れてくるなんて、絶対、性癖捻くれてると思う。

「まぁまぁ、木兎さん。ここはなまえちゃんの意見を尊重しようや」
「なまえちゃんの意見って……手コキと手マンでお互いイったら出られるんじゃないかってやつだっけ?」
「もうほんとにやだ木兎さんのバカキライなんでそんなはっきりいうの」
「木兎、お前もうちょっと黙ってなさい」

 木兎さんがひどすぎて涙が出てきた。あまりにもデリカシーがなさすぎる。木兎さんはデリカシーという言葉の意味も絶対知らないと思う。
 黒尾さんも一応フォローはしてくれているが、さっきから声が震えっぱなしだ。笑いを堪えきれていない。それでもまだ黒尾さんの方がマシだ。紳士だし、大人っぽいし。木兎さんとは真逆だと思う。……でもこの二人、意外と仲が良かったりするので侮れない。木兎さんの誘いにもし黒尾さんがノってしまったら、多分取り返しのつかないことになる。がっちがちのスポーツマン二人にわたし一人の力で敵うわけがない。

 ならば最悪の結果になる前に、こちらから先手を打つしかない。

「……黒尾さん、わたし、どうしてもセックスはいやですっ!」

 きゅるん、と目に涙を溜めて、黒尾さんの方へ振り返った。精一杯に甘えた声を出して、上目遣いで黒尾さんを見つめる。こんなあからさまなぶりっ子攻撃に黒尾さんが引っかかるわけはないが、それでもまだこの人は、多分、わたしの味方でいてくれる。だって、さっきも私の意見を尊重しようとしてくれた。
 木兎さんの言い方はアレだが、言っている意味は正しかった。……とにかく。できる限りセックスとは一番遠い形で、この部屋を出たい。わたしはそれだけしか考えていなかった。

「……まあ、俺も無理矢理やるシュミはないし、それは全然いーんだけど」
「あと、やるなら絶対黒尾さんがいいです」
「は?!黒尾だけずるくない?!俺は?!」
「……わたし、たぶん下手、ですけど」
「無視!!?」

 後ろで騒ぐ木兎さんは無視をして、黒尾さんの方へ身体を寄せた。ベッドがぎし、と揺れる。両膝をついて前屈みになり、黒尾さんのベルトに手をかけた。
「え、」と上から声が聞こえる。

「……マジ? もしやなまえちゃんが脱がせてくれようとしてる?」
「え? い、いやなら、べつに、その」
「……いんや、任せるよ。その方が興奮する」

 黒尾さんの表情が、一瞬固まったように見えた。が、すぐにもとの飄々とした笑みに戻る。

 少し、早まっただろうか。
 でも、グズグズしていたら、見ての通りセックスする気満々の木兎さんに押し倒されてしまいかねないので、なるべく早い内に事を済ませてしまいたかった。
 別に木兎さんのことは嫌いじゃなかったけれど、三人でセックスをすることについて前向きすぎて、ちょっと引いてしまったのだ。仮に黒尾さんが木兎さんと同じことを考えていたとして、それを口にするのとしないのでは天と地ほどの差がある。

 興奮する、と言った割に、黒尾さんは至極冷静に見えた。手も口も出さず、じっと動向を見守っている。かちゃ、かちゃとベルトを解いていく音が嫌に響く。さっきまでギャアギャア騒いでいた木兎さんが急に静かになったせいだ。ほんと最悪だ。

 まあ、何を考えたって私が冷静でいられるはずもないので、目の前のことに集中するしかない。ベルトを引き抜き、ジッパーを下げて、いよいよそれに手で触れる。
 下着越しでもわかるくらい、黒尾さんのそれは大きかった。予想はしていたけど、思わず身構えてしまう。男の人のモノに触れるのは初めてではないけれど、とにかく、アレだ。このサイズ感は中々お目にかかれないと思う。とはいえ別に心が沸き立つようなことでもなく、ただただ不安が増す一方だ。

「互いをイかせる」なんて、もしや物凄く大それたことを言ってしまったのではないだろうか。経験など殆どないに等しい私に、果たしてコレがうまく扱えるだろうか。触れたまま、つい固まってしまった。

「……アレ、もしかして焦らされてる?」
「っ、ち、ちがいます!」

「ん? 」とにこやかに首を傾げた黒尾さんに、慌てて首を振る。集中するといったそばから臆してしまっては駄目だ。ぎゅ、唾を飲み込んで、湧き上がってくる羞恥心を腹の奥に押し込めた。

2021.10.10 16:11

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