「お疲れ様」 「遅ェよ、死ね土方」 何だとコノヤロー、と怒鳴る土方を尻目に、さっさと現場から立ち去る。攘夷志士数十名。数える暇などなく斬りかかって来た。いつもは報告書を作成するためにも、数えていたのに。攘夷志士の活動が盛んだからだろうか。どのくらい斬ったのか、もう分からなくて。 「沖田さん、お疲れ様です」 「おー、風呂沸いてる?」 「はい」 返り血を浴びた隊服を山崎に預け、自室へと戻る。刀の手入れをしなければ。何故かそう思った。刃こぼれがあるのか、切れ味が悪い。瞬間の手ごたえに、違和感を感じたのだ。もっと素早く、的確に、一瞬で。敵に容赦などしない。邪魔者は斬るだけだ。仲間に斬りかかるよりも早く、全てを終わらせる。終わらせてやる。 「総悟、いるか?」 「…近藤さん?」 そっと障子を開けてみれば、笑顔を浮かべた近藤さんが縁側に座っていた。 「どうかしたんですかィ」 「いやなあ、月が綺麗だったからさ」 まあ近藤さんらしいと言えば、近藤さんらしい理由だ。ふと夜空を見上げれば、確かに月だけが光り輝いている。目を背けたくなるほど、眩しいくらいに。 「今日さ、大変だったろ」 「あのぐらい平気でさァ、まだまだいけやす」 斬り込み隊長として、剣の腕を磨いてきたのだ。あの程度の数ではまだ足りない。江戸中の敵が襲ってくる程でなければ。大切な人を護るために、もっともっと。敵をたくさん斬って、たくさん殺して。屍の上でも立っていられるように。力を。 「でもなぁ総悟、お前は一人じゃねーんだよ」 ぽんっ、と隣に座っていた俺の頭を、近藤さんは軽く叩いた。 「何もかにも、一人で背負おうとするな」 「でも俺がやらなきゃ、誰がやるんでィ」 「……俺はよぉ、お前にも、みんなにも辛い思いをさせたくねーんだ…。だからな、総悟」 一人で泣くなよ。 - - - - - 敵は斬らなければならないという使命感と、仲間を護りたい気持ち。 それに挟まれて無意識に泣いちゃう沖田と、慰める近藤さん。 |