二年後だなんて知らねぇよ、いつの間にそんなことになったんだよ。
真選組に入隊した新八の後をつけていくと、次から次へと変貌した仲間の姿を目にした。誰だお前なんて言いたくなる奴ばかりだ。ニュース番組で知った情報が確かならば、イボに寄生されたらしい。向上心を糧に成長するそうだ。なるほど自分には縁のない話である。おかげで面白い光景を見ることができたけど。


「あの調子じゃ、新八もイボだな」


というかイボ同士で子供ができるもんかね。近藤を追いかけていく彼等の姿を確認して、俺は気絶している少年を抱き上げた。どうやらツッコミが不十分だったようだ。まだ格好は元に戻っていない。どいつもこいつも個性的な願望を抱いているが、彼は誰よりも突き抜けている。真選組帝国に江戸の制圧、さらには将軍を血祭り。お前は市民を守る警察だろうが。攘夷浪士と変わらないチンピラ具合に思わず溜め息を吐いてしまった。馬鹿だ。馬鹿すぎる。


「…ぅ」
「やべっ、ハリセンで叩かねえと」


身動ぎをした少年にこのままでは目を覚ましてしまうと焦る。先程土方が落としたハリセンがあったはずだ。ツッコミにはハリセンが適しているだろう。今時、そんなツッコミの仕方は時代を感じるけども。すぐさま元に戻さなければと辺りを探し回る。まずいまずい。ただでさえ人を振り回す野郎だ。二年後なんて厄介極まりない。


「これをお探しかな?坂田将軍」
「……、うげ」


何なのその呼び方。俺はいつの間に将軍になったの。もしかして将軍を血祭りにしたのは俺ってことになってるの。彼の中での物語について行けず、頭が痛くなった。予想通り背後には凛々しい顔立ちをした少年、いや、青年が佇んでいて。二年間でこのように成長するのかは疑問だが、俗に言うイケメンとなっていた。


「ハリセンを何に使うのか興味はないが、これを返してほしいのなら私と勝負してもらおう。歌舞伎町を賭けて」
「おいおい、ありゃ俺のモンじゃねぇよ」
「フン、この期に及んで何を言う」


手に持ったハリセンで遊びながらもバカイザーは話を続ける。


「江戸を我が手中に収めるためには、全ての町を制する必要がある。しかし歌舞伎町だけは落とすことができなかった。貴方がいたからだ、坂田将軍」


つまり俺は歌舞伎町の番人もしくは頂点に立つ者という設定か。頭が中二の夏だと少年は言ったが、それはお前だろうと文句を言いたくなった。さてはてどうしたものか。ハリセンを奪うにも、彼が隙を見せるとは思えない。何せ真選組最強の男だ。これは勝負を受けて勝ち取った方が早いのかもな、とぼんやり考える。けれどそんなことよりも一つ、気になることがあって。


「なァ総悟君」
「…何かな、坂田将軍」
「どうして俺のこと、旦那って呼ばないの」


距離を置いた呼び方に会話の最中ずっと苛々していた。どんな敬称でも構わないが、壁を作る言葉は気に食わない。質問に戸惑いを見せず飄々とした態度を取る彼が、余計にそれを苛立たせた。


「私がどう呼ぼうと、私の勝手だろう」
「ああそう。じゃあ俺がどう呼ぼうと勝手だよな。…閣下」


呼び方が変わったことに僅かに動揺した隙を突いてハリセンを奪う。そうしてすぐさまパンッと頭を叩いた。煙とともに元の姿に戻った少年を抱きかかえて溜め息を吐く。眠る姿は自分の知る沖田総悟だ。イボだとは分かっていても腹が立った。いつものように接してくれなかったから?敵と見做していたから?くだらない、と思い浮かんだ考えを一蹴する。


「新八達ンとこにも行かなきゃなあ」


とりあえずは彼を何処か安全な場所に置かなければ。気絶したままの体を背負って、鬼退治ならぬイボ退治をするために歩き出した。


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旦那って呼ばれないことに嫉妬する銀さん。

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