白で統一された広い部屋の片隅にあるベッド。そこで虎徹は目を覚ます。今日も変わらぬ現状にどうこうする気は既に奪われていた。虎徹が此処に閉じ込められたのは何週間、何か月前か。外界から遮断された空間では日付すら分からない。始めは壁に印をつけていたものの、それも途中で止めてしまった。以前の鏑木・T・虎徹を知る者が見れば別人かと思う程、彼は変わった。当たり前だろう、拷問のような日々が続いているのだから。いくらヒーローとて所詮は人間。耐えられるわけがない。ぼうっと天井を見つめる。浮かぶのは愛しい家族と、相棒の姿。けれど今、会えば自分自身が何をするか分からない。能力が使えるようになった頃、レジェンドに会う前の頃と同じだ。と、その時、がちゃんと扉の鍵が開く音が聞こえた。部屋に入って来たのは、此処に閉じ込めた張本人。


「よぅ、起きたのか?」
「……飯、は…」
「持ってきてるよ。お前の好きなマヨネーズもな」


トレイにはパンとサラダ、スープ、それにマヨネーズが置かれていた。ベッドの傍に置かれたテーブルの椅子に座り、よく噛んでごくんと飲み込む。向かい側に腰を下ろした男は静かに手を伸ばす。


「髪が伸びたな」
「………」
「今日は髪を切るか」


素直に頷くと男は綺麗に微笑んだ。


「可愛いなぁ、虎徹。…でも、まだだな」
「…、…まさか!」
「もっと壊れようか」


男が指をパチンと鳴らすと、一人の女が数人の男に引き摺られて部屋にやって来た。そうして部屋の中央に、まるでごみのように投げられる。息も絶え絶えに女は動いた。床に這い蹲りながらも、必死に。何度も見た光景に吐き気がこみ上げてくる。気持ち悪い、気持ち悪い。鮮明に思い出す血の臭いと、誰かの叫び声。いつまでも終わらない地獄のような時間。


「…やっ、やめろ…!」
「あー、ほらほら、動いちゃだめだってば」
「!」


走り出そうとするも膝に力が入らず床に倒れ込む。監獄に閉じ込められている今、運動をしない体は思うように動かない。元気だけが取り柄なのに、これではヒーローに戻ることすら出来ないのだ。男はNEXTだ。どんな能力なのかは分からない。けれど自身の能力を発動することが出来ないので、一定範囲内の能力を無効にするとか、そういうものだろう。今ここで能力を使うことが出来れば、助けることも、逃げ出すことも出来るのに。助けることが出来なかった人々を思い、自然と涙が零れた。女の叫び声が部屋中に響く。死が迫ってくることに対しての怯えが声を通して伝わってきた。


「虎徹」
「……っ」
「気持ち良いんだね?」


男が指差す先は自身の股間だった。見なくても分かる。幾度となく見たのだ。人を助けるヒーローが、人が傷付けられ、死ぬことに興奮している。死ぬ間際の声に、舞い散る血に、自分の内に出された液体に、全てに快感を見出している。目の前で誰かが殺される度、気持ち良くなっていった。最初は自分自身に恐怖した。ヒーローなのに、これではまるで殺人者だ。そんなわけがない、と。否定し続けてきた。けれど徐々に、自分が分からなくなった。もしかしたら最初からそういう面があって、今までヒーローの影に隠れていただけなのではないかと。もしかしたら今、助けようとしているのも建前であって、本当は殺されるのを望んでいるのではないかと。


「虎徹」
「…っあ、…」


耳元で囁かれただけでびくびくと体が震えた。男は手際よく虎徹のズボンを、下着を脱がす。そして慣らしもせずにそこへ自身のものを挿入した。


「ひぅ、う!?」
「よく見てるんだよ虎徹。彼女の死に際を。それがヒーローの役目だ」
「…ぁ、ヒーロー…、の、役目?」
「そうだよ」


後ろからの刺激が強くて思考が奪われていく。快楽だけを求める獣のように、腰が揺れた。太腿から汗が滴り落ち、熱い吐息が漏れる。ぐちゅぐちゅと気持ちの悪い水音が、女の叫び声と共に耳を支配した。


「気持ち良い?」
「…ん、い、い…っ…、ふぁ…」


瞳は女が息絶える瞬間を焼き付けている。ああ、また殺されてしまう。無力な己は欲を優先して。まだ間に合うはずなのに、動こうとすれば動くかもしれないのに。欲が正義を塗り潰す。


「あ、ぁっ」
「出る?」
「ん、っ…出、る!」
「分かった。俺も出す、よ」


目の前が真っ白になる。瞬間、刃が女の胸を貫いた。血飛沫が舞い、伸ばされた手が糸が切れたように落ちる。


「ああっ」


快感と苦痛が混ざり合い、虎徹はそのまま意識を失った。精神的にも肉体的にも追いめられ、ぎりぎりの状態なのだ。少しでも触れれば壊れ、そしてひび割れたガラスのように粉々に砕けていく。男は虎徹から自身を引き抜き、抱きかかえてベッドに寝かせた。
傍にいた男に死体を処理するように命じる。血生臭くて仕方がない、と壁の一部分に埋め込まれているボタンを押した。すると機械音とともにゆっくりと壁が動き、隙間から光が差し込む。虎徹には教えていないが、この部屋は壁全体が動き、シュテルンビルトの景色を眺めることが出来るのだ。もちろんこうするのは虎徹が気絶している間だけであるが。


「ねぇ虎徹、もうちょっとだよ」


もうちょっとで虎徹からヒーローは消え去る。もうちょっとで自分と同じところまで堕ちてくる。人を殺すことを厭わない、完璧なる存在が出来るのだ。


「目が覚めたら今度は何処まで壊れているのかな」


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以下ぐだぐだ設定と大まかな話の流れです。

男はワイルドタイガーの元ストーカー。トップマグ所属時代にワイルドタイガーを傷付ける犯罪者を殺し回り、虎徹に捕まった。マーベリック事件後に、金とか能力とかを使って出所。ゴールドステージに住んでいる金持ちなので監禁部屋を作りました。ワイルドタイガーに憧れているけど、犯罪者となった自分はヒーローにはなれない。ワイルドタイガーと同じでありたいのに…そうだ、ワイルドタイガーを自分と同じにしようそうしよう。
そこで男は能力を使いました。男は精神操作系のNEXTで、虎徹の目の前で殺人を犯して、虎徹自身も犯します。くやしい…!でも…感じちゃう!ビクンビクンな虎徹は能力によって殺人に快感を得ていると錯覚。人を殺すのって気持ち良い…とかぶっ飛んだ思考になっちゃう虎徹さん。バッドエンドだと死姦までするんじゃないかな。で、アヘ顔を晒すレベルまで壊れます。壊し尽くします。
そこでようやくバニーちゃん登場!遅いね!でもそれでいい!虎徹さんを救出するも虎徹さんが犯罪者になりかけてて、あたふたするバニーちゃん!
それでも虎徹は理性が残っていて、抑えられない自分を遠ざけようとします。大人になったバニーちゃんが放っておくわけがない。虎徹はバニーを殺そうとするも、バニーは殺されても構わない。でもあなたは僕を殺さない、とか何とか。最終的にはハッピーエンド。そんな長々しい話です。

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