※死ねた
※バイバイ〜の最終回別ver


今日も世界は進んでいく、死への悲しみすら置いて。
酢昆布を飽きずに食べている少女を見つめながら、沖田総悟はぼんやりと考えていた。暇だな、遊びたいな、と。入院している沖田の病室に遊びに来る、神楽、という少女は、友人だそうだ。彼には数年間の記憶がない。武州で過ごしていた頃は覚えているが、江戸に来てからの記憶が一切ないのだ。近藤や土方から仕事の最中、大怪我を負ったせいだと聞いた。確かに体のあちこちに包帯が巻かれている。しかし少年は察していた。それは、生まれ持った感覚のようなものだ。彼らは嘘を吐いてる。記憶喪失の原因は違う。もっと別の、言い難い何かだ。


「おい」
「…、…え?」
「眉間に皺が寄ってるネ。まーた余計なこと考えてるダロ」


人差し指でぐいと額を押されてそのまま後ろに仰け反る。


「記憶がないのは辛い?」
「…そりゃ、そうだろ…今までの思い出がないんだから」
「でも、記憶がなくても変わらないアル。ゴリラもマヨもジミーも。忘れるのも忘れられるのも辛いけど、関係は変わらないヨ。お前はお前ネ」


自分よりも幼い少女に慰められるなんて、と苦笑いを浮かべた。人のことはよく見えても、自分のことは見えない。神楽は沖田総悟という人物を理解している。考えていることも見透かされているような気がして、一瞬心臓がどくりと高鳴った。


「いつまでそんな顔をしてるの?ま、今日は帰るヨ」
「……あ、ああ…。じゃあな、神楽」
「…、…またね、ソーゴ」


静かに閉められた部屋の扉を見つめる。名前を口にした時に顔色が変わったのは気のせいだろうか。いや、気のせいではないのだろう。そういえば、以前は彼女を何と呼んでいたのか、神楽に聞いていない。もしかして呼び捨てではなく、あだ名を付けていたとか。考えれば考えるだけぐるぐる思考の渦に巻き込まれる。眠りに落ちると見えるのだ。記憶が。はっきり見えはしないけど、心に残された記憶の断片。取り戻すために必死で探し出すが、目を覚ますと曖昧にしか覚えていない。いつかは戻るという確信はある。しかし何故か思い出してはいけないような、そんな気がした。




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