とりあえず、先程の雑誌記者に教えられたケーキ屋を訪れた。ガラスショーケースの中にある様々なケーキから気に入った二つを選ぶ。もしかして彼女さんへのお土産ですか、なんて聞かれたので、いいえ同僚への差し入れですよと答えた。彼氏彼女という関係にあまり興味はないのだ。必要なのは愛があるかないかだけだから。僕は愛に飢えている。つい最近まで自覚しなかったことだが、愛を渇望しているのだ。そう気付かされたのはいつだったか。両親の愛のみを受け取って生き、二人が殺されて以来、誰からも愛を受け取ることがなかった。考えると愛をこんなにも気持ち良く感じ、受け取り受け取られるのは初めてだ。素晴らしい。何もかもが自分を愛してくれるような気さえした。キラキラと輝くネオンを眺めながら、足早に自宅へと戻る。厳重なセキュリティは自分を、自分の心を守ってくれる気がした。


「ただいま帰りました」
「おかえり、ばにー」


無邪気な笑顔を浮かべて抱きつく姿は本当に愛おしくて。壊れないようにそっと抱き上げ、ソファに座らせた。にこにこにこにこ。あまりにも純粋な感情は容易く心を癒してくれた。世界を眺めて吐き気がしないのはこの人のおかげだ。買ったケーキを冷蔵庫に入れて、僕もソファに腰を下ろした。抱きついて胸元に顔を擦り付けてくるので、その軽い体を持ち上げて膝の上に座らせる。髪を手で整えてあげると、気持ち良さに身を捩じらせた。何もかもが愛おしいのだ。どんな表情を浮かべようとも。


「虎徹さん」
「…?んむっ、…ん」


優しく口付けてあげると、彼は覚えたのか無自覚なのか口を開く。迷わず舌を捻じ込んで、震えた体をさらに抱き締め、口内を蹂躙した。びくびく。濡れた瞳は強請るように僕を見つめる。幾度も体を重ねて身についたのだろう。首、耳、胸。ゆっくり愛撫して唇を落としていく。いつの日からか忘れたが、僕は虎徹さんを監禁した。最初は酷く抵抗したが、徐々に従順になる彼は、見ていてとても可愛かった。首輪も手錠も足枷も必要ではなくなった時。虎徹さんは壊れていた。僕以外の誰も認識せず、写真や映像を見せても記憶から消されていて。ようやく、僕だけを見ていてくれるようになったのだ。


「僕は虎徹さん以外、虎徹さんしかいらないんです」
「…おれもばにーしかいらないよ?ばにーだけ」


濁りのない瞳は世界の何処も映していない。目の前にいる僕だけを映している。そうして僕もそんな彼だけを映しているのだ。ああ、寝る前にケーキを食べてしまおう。彼の大好きなケーキを買ってきた。喜ぶだろうな。
世界は今日も美しい!

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