掴もうとした瞬間、泡となって消えるのを見た。


「おはよう」
「…、…ぁ、?」
「夢見が悪かったのか?汗、凄ぇぞ」


はっきりと視界に入った彼を見ると、いつもと変わらぬ笑顔があって。思わず安堵の溜め息を吐いた。ああ、嫌な夢だ。目が覚めていくにつれて記憶は薄らいでいくが、感覚だけは覚えている。あの日から幾度も見るのだ。両親が殺された日を悪夢として思い出すように。失ってしまう夢を。また失ってしまうのではないかという恐怖と共に。


「おいおい、大丈夫か?ほら、水」
「…ありがとうございます」


手渡されたコップに入っている水を喉に流し込む。熱っていた体を内側からひんやりと冷やしてくれてとても気持ちがいい。ベッドに座り込んだままの自分の隣に腰を下ろし、彼はじっと顔を覗き込んできた。


「バニーちゃん、どうした?」
「いえ、何でもないですよ」
「そんな顔してねぇけど」
「何もありませんって」
「……あっそ」


まったくバニーちゃんは変なところで頑固なんだからな、と口を尖らせて呟いた彼は、再びベッドに横になった。行動の一つ一つを目で追っていた自分に気付いたのか、微笑んだ彼はそっと両手を広げる。躊躇いもせず、覆い被さるような形で僕は抱きついた。


「虎徹さん、愛しています」
「うん、俺も愛してる」
「だから僕の前から消えないでください」
「俺はバニーちゃんの傍にずっといるよ」


虎徹さん、虎徹さん、と子供のように縋る僕を、彼は力強く抱き締めた。抱き締めていないと、抱き締めてもらわないと、僕は不安で仕方がないんだ。いつかまた、僕の中から、あなたの中から、存在が消えてしまうような気がして。

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