「で、オマエは現在進行形で記憶喪失なわけか」
「…まぁ、…そうなりますね」


律儀に正座している上条当麻をじっと見た後、少女はわざとらしく溜め息を吐いた。話を聞くに彼女、鈴科百合子とは幼馴染であるらしい。上条は記憶喪失だ。彼には七月二十八日以前の記憶がない。だから目の前で缶コーヒーを飲み続けているアルビノ少女とも面識がなかった。もちろん七月二十八日以前の上条当麻は面識があるのだろうが、今現在の上条当麻にとっては、殺意を惜しみなく出す美少女とは全くの初対面。どんな人物なのか、どんな関係だったのか知らないのだ。


「……、ごめん。その、俺さ、」
「謝ンじゃねェよ。オマエの記憶が豚箱に捨てられよォが、悲しくもなンともねェし」


起伏のない声だけを聞いていれば、良かったと上条も安堵することが出来ただろう。けれど夕陽に照らされた少女の瞳は、微かに揺れていて。名前のない感情が胸を締め付けた。あの子と同じ、隠し続けるべきだったと。今回に関してはどうしようもなかった。道端でバッタリ会って、ふりを続けたけれど少女の勘が鋭くて。問い詰められてボロが出て、はい終了。我ながら情けない話だ。


「なァ」
「はっ、はい!何でしょうか!?」
「その堅苦しい態度はやめろ。それより、記憶がなくても右手は使えるのか?」
「幻想殺しだっけ?使えるみてえだ。さっきもビリビリの能力打ち消してたから」
「ビリビリ…?あァ、第三位のことか。そォか、右手、使えるのか…」
「???」


隣に腰を下ろしている少女はしばらく考え込んだ後、何かを決意したように顔を上げた。


「もしも、」
「え?」
「もしもこの顔と同じ奴を見かけたら、すぐに連絡をくれ」
「アンタのそっくりさんってこと?それとも御坂妹みたいな?」
「私みてェなの世の中にそうそういねェだろ。とにかく、電話番号だけ教えておくから」


そう言って携帯電話を取り出した彼女は、上条の携帯電話を取り上げ、データを勝手に送ったようだ。ぽいっと放り投げられたそれを慌てて受け取り、上条は再び鈴科百合子を見る。


「悪ィな、オマエがこンなことになってるとは思わなくてよ」
「記憶喪失のことか?それは俺が謝るべきことだ。どうしてお前が謝るんだよ」
「……まァそれは追々話す。今は、まだ何も知るべきじゃねェンだ。とりあえずさっき言ったこと頼むぜ」
「おっ、おい!待てよ、百合子っ!」


立ち上がってそのまま何処かへ歩き出す百合子の腕を、上条は咄嗟に掴んで引っ張った。突然のことにバランスを崩した彼女は、ぽすんと彼の腕に収まる。


「あァ!?な、何しやがンだ!」
「わーっ!そんなに強く叩かないで!痛い!痛いー!」


腕の中で暴れる彼女の両腕を、上条は同じように両手で掴んだ。抵抗されるのは当たり前。傍から見れば警備員や風紀委員に連行されそうな状況だが、それでも彼は手を離さない。自分自身の内に沸きあがる感情を抑え切れなかった。この手を離してはいけないような、そんな気がして。


「百合子!」
「…な、何だよ」
「俺はお前に、誰にも話していないことを、記憶喪失だってことを話した」
「だから何だってンだよ。見返りに俺に話せってかァ?」
「そうだ」
「っ!」


気まずそうに目線を逸らす百合子を見て上条は確信した。確かに彼女とは今日が初対面だ。本当は以前から何らかの関係があったのだろうが、それは今の上条が知る由もない。しかしだからといって、自分に助けを求めているのなら、その手を振り払う言い訳にもならない。


「話してくれ、百合子」


もう一度、今度は真正面から少女に告げた。
それがどんな出会いを、闘いを生むのか、まだ誰にも分からない。


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上条と百合子が幼馴染で、一方通行と百合子が双子のif。実は一方通行と美琴が幼馴染っていう設定があったり。シリーズものにしたかった話です。百合子は一方通行の実験を美琴に聞いて知っているけど、場所を教えてもらえず一方通行に会えないまま。どうしようかと考えていた時に上条と遭遇したわけです。

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