ちょうど腹が空いて目が覚めた頃、時刻は既に正午を越していた。授業中に眠るのは当たり前となっていて、教師も面倒になったのか注意をしない。おかげで今日も充分な睡眠をとることが出来た。すっきりとした目覚めだ。まあ授業態度は悪いから、オール5とはいかないが期末試験で満点を取れば赤点にはなるまい。そんな軽い気持ちでさてはて昼食はどうするか考えていた時だった。ポケットに入れていた携帯電話のバイブが作動した。液晶画面には滅多に掛けて来ない人物の電話番号。授業中にも関わらず教室を飛び出し、すぐさま電話に出た。


「どうしたの、新一!」
『…大声でうるせぇな、普通に出れねぇのかよ』
「だって電話なんて久々でしょ、最近会ってないし」
『俺とオメーは恋人同士かよ』
「え、違うの?」
『切るぞ』
「ごめんごめん、冗談だって」


けれどそれと似た関係を持ちたいとは思っている。怪盗キッドという偽りの仮面を被り、周囲を欺いてきた自分。そして別の自分を創って組織を追う、まったく同じ境遇の彼。だから手を組んだ。敵対する関係だけれど、実力は認めているから。こうして素で話すのも家族と寺井を除けば工藤新一だけ。だから安心出来る。全てを話せるのだ。


「それで、今日はどうしたの?」
『どうもねぇよ、声が聞きたくなっただけだ』


やんわりとした声には聞き覚えがあった。電話越しに伝わる穏やかな空気。それは一人で背負おうとする彼の癖。他人を安心させようとする、自分だけは危険な領域に踏み込んでいながら。ざわりと嫌な予感が頭を過ぎった。


「……何があったの?」
『心配すんな、俺は大丈夫だ』
「今どこ!?すぐに行くから!」
『だから大丈夫だって…、じゃあな快斗、…ありがとう』


待てという言葉が喉元を通り過ぎる前に、電話は一方的に切れた。まずい。そう本能的に直感する。すぐさま教室に踵を返し、教師の言葉に耳を傾けず学校を出た。行き先はただ一つ。組織の元一員である女史が住む、阿笠博士の家。小学校であればもう授業は終わっている筈だ。家にいなくても阿笠博士はいる。彼なら事情を少しは聞いているだろう。走りながら何度か電話を掛けたが、電源を切っているらしく通じない。


「(頼むから無事でいて、新一…!)」


悲痛な叫びはまるで心と正反対に青空へ消えていった。

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