親父の知り合いから招待状を渡されたから青子と行ってと、おふくろに言われたのは昨日のこと。あまりにも唐突過ぎたがちょうど仕事もなく暇だったので、俺は青子と行くことにした。どうやらその知り合いというのは、あの有名な工藤優作らしい。闇の男爵シリーズは読んだことがあったが、ミステリーに興味のない自分でも楽しめた。しかし工藤と言えば名探偵の父親であるが、彼も来ているのだろうか。最近は連絡を取っていない(というか電話やメールをしても大概無視される場合が多い)ので、もし来ているのなら会うのは久々だ。まあ、実の息子なのだから来ているのは当たり前だろうな。


「凄いよね」
「ん、何がだよ?」
「…ちょっと快斗、知らないのに来たの?」


どうやら俺達が招かれたのは最新ゲーム機"コクーン"の完成披露パーティーだそうだ。暇だからという理由で来た自分にとって、どうでもいい話である。そのゲームのシナリオ提供をしたのが工藤優作で、開発協力をしたのが阿笠博士という訳か。それにしても著名人ばかりだなぁ。政治家やら医者やら、金持ちばかりだ。こんなことなら予告状でも出しとけばよかった。宝石の一つや二つ、身に着けてくる奴がいただろうに。


「コクーンを体験出来る子、羨ましいなぁ」
「ただのゲーム如きでアホらし…」
「快斗はマジックしか興味ないもんねぇ?」
「うるっせーな」


グラスに注いだ水を一気に飲み干す、と、青子が何処かに手を振っていた。どうしたのだと視線を向けると、やはり彼が来ていたのだ。幼馴染や子供達を連れて。


「よぅ、コナンちゃん」
「何でテメーがいるんだよ」
「君のお父上に招待されてね」
「へぇ、知り合いだったのか?」
「そうらしいよ、うちの親父が」


黒羽快斗と工藤新一の関係がそうであるように、親父と彼の父親も何かしら関係があったのだろうか。幼い頃に会ったことがある彼の母親とも、親しい仲だったようだし。親子そろって縁があるとは、世界は狭いな、なんてふと思った。


「そうだ、これやるよ」
「何これ?」
「ゲーム参加者のバッジ」
「コクーンのか?だったら新一がやればいいじゃん」
「………」


残念なことに工藤君はゲームが苦手なのよね、と俯き加減の彼の隣で、ドクターはいかにも馬鹿にしていますという笑みを浮かべた。図星なのか何も言わない彼に、また一つ弱みを見つけたな、と思いつつ、自分の方が弱点を知り尽くされているということに気付かない快斗であった。



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「あ、阿笠博士」
「快斗君、来ておったんじゃな」
「さっきから騒がしいみたいですけど、何かあったんですか?」
「…殺人事件じゃよ、コクーンの開発責任者が殺されたんじゃ」


小声で話された内容になるほどと納得する。だから新一と毛利探偵は此処にいない訳ね。行く先々で事件に巻き込まれて、まったく忙しい人だ。事件が探偵を呼び寄せるのか、探偵が事件を呼び寄せるのか。解決するまで暇だし、ゲームに興味はないし、青子は蘭ちゃん達と会話して楽しんでるし。もう帰っちゃおうかな、と、次々に会場に入っていく子供達を見ながら、ふと目にした人物に首を傾げた。


「…新一?」


ゲーム参加者の列に並んでいたのは先程まで事件現場に行っていたと思われるコナンの姿。もう事件を解決させたのだろうか。けれど会場外はまだ慌しい。彼が事件を放ってゲームに参加するとは思えない。じゃあ一体どうして。


「快斗、何やってんの?」
「いや…、コナン君がいたからさ」
「ホントどうやって参加したのかしらね?」
「園子ちゃんはゲーム参加しないの?選ばれてなかった?」
「あたしは興味ないから、蘭にあげちゃった」


保護者として蘭も心配だろうし、と親友である鈴木財閥の跡取り娘は気だるそうに話す。彼女も危険なことにばかり首を突っ込む探偵が心配なのだろう。それが弟のような存在だからなのか、心の何処かで幼馴染に重ねているからなのか。どちらにせよ彼女が心配をしているのには変わりない。何か理由はあるのだろうが、せいぜい楽しめよな。
――けれど、望んだとおりに事が進まないのが常だ。


『我が名は、ノアズアーク』


そうして彼を含めた50人の子供達が、命を懸けたゲームをすることになる。
日本のリセットを望む人工頭脳の策略によって。

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