勘付いているな、と察したのはすぐだった。
職業柄、警察に追われるだけではなく、命を狙われることだってある。それは怪盗になると決めた時に覚悟していたことだ。だけど最近、あの組織ではなく、別の誰かに命を狙われていた。どうやら前に遭遇した奴等が関係しているらしいが、探偵ではないし調査のし様もなかった。そんな時だ。彼が巻き込まれた事件に、そいつ等が関わっていると知ったのは。警戒されないよう、パスをこっそり拝借し、白馬に変装して近付いた。西の名探偵はまるで気付いてないが、東の名探偵は勘が鋭い。一瞬でもボロを出すと、すぐに疑う性質だ。まあ、そうじゃなきゃつまらないのだけど。


「ねぇねぇ」
「ん、どうしたんだい?」


服の袖を引っ張って子供らしく振舞う姿は、正体を知る者としては面白おかしくて。怪盗キッドではなく黒羽快斗だったら、ポーカーフェイスは崩れ去っていただろう。恋人に甘えるような声で、にこにこと愛想を振り撒く。誰がこいつをあの工藤新一だと思うだろうか。


「もしかして白馬お兄ちゃん、怪盗キッド?」
「あはは、面白い冗談を言うね」
「じゃあ違うの?」
「当たり前だろう」
「…ふーん」


納得出来ないような表情をして、聞き込みをする服部平次の元へと戻る。いつもならしつこく疑うのに。まあ、事情が事情だからしょうがないか。怪盗を捕まえることより、最愛の恋人を助ける方が大事だろうし。だけど、何だか妬けちゃうねぇ。



- - - - -



調査を順調に進めていく矢先、やはり奴等が現れた。怪盗キッドの命を狙い、そして今、この名探偵達をも狙う輩が。どうやら深山社長は、本当に後輩思いのようだ。邪魔になる者は誰であろうと消す。それが子供でも。
二手に分かれよう、と彼が提案したとき、なんて無鉄砲な奴なんだ、と飽きれた。確かに探偵としては優秀だ。俺を追い詰めた奴なのだから。けれどそれでも、身体はただの子供。どんなに有能な道具があっても、一人で背負えるものではない。相手は殺しのプロ。それなのに、変装した俺を巻き込むまいと、たった一人で標的になるなど。考えなしにも程がある。


「あの馬鹿っ」


すぐさま階段を駆け上り、空中へと身を落とす。ハンググライダーで跡を追うと、スケボーで奴等から逃げ回る姿が見えた。相手も相手だ。子供相手にそこまでやるのかよ。二方向から追い詰めようとする敵の片方を、上空から狙い、トランプ銃で転ばせる。そして名探偵をまだ追っているもう一人のところへ向かい、視界に入れた瞬間。そいつはアーチを走る彼に容赦なく弾丸を撃ち込み、そしてその一つが、スケボーに当たったのだ。


「(まずい!)」


銃弾の衝撃に弾かれ、彼は真っ逆さまに落ちる。もし川に落ちてしまったら大怪我だ、事件の調査どころではない。ハンググライダーを急降下させ、必死に手を伸ばす。そして水面下ギリギリの所で、小さい身体をどうにか抱き留めた。どうやら連中は川に落ちたと思い込み、引き上げたらしい。人気のない場所にそっと降り、地面に身体を寝かす。


「(気絶している…、ったく無茶しやがって)」


身体中に傷はあるが、かすり傷だ。とりあえず何処も怪我をしていないか、手足を見ていく。と、左足に触れたとき、微かに呻き声が聞こえた。ズボンの裾を上げると、左脹脛が真っ赤に腫れている。これは下手をしたら、折れているな。ポケットを探って携帯電話を取り出し、アドレス帳から知っている人物へと電話を掛ける。もちろん俺のではなく、名探偵の、だけど。


「もしもし、阿笠博士さんいらっしゃいますか?」
『阿笠はわしじゃが、君は?』
「僕は白馬探と言います。実はコナン君が怪我をして動けないようなので、今から言う場所に来ていただきませんか?あ、それと持ってきてほしいものがあるのですが…」


要件だけを伝えてすぐさま変装をする。当分起きる気配はないが、その方がいいだろう。危なっかしくて、見ていられねぇよ。何でも一人で背負って、かっこつけようとして。奴等を引きつけたのも、白馬探は事件と無関係なのに気付いていたんだろ。だから巻き込まないようにしたんだろ。俺が怪盗キッドだから、変装を解けないから。


「――それではお願いします」
「君はどうするんじゃ、一緒に乗らないのかい?」
「僕はまだ調べたいことがあるので…、西の探偵君を乗せてあげて下さい」


これから俺はやらなきゃならないことがある。
それは君も同じだろ、名探偵。


「応援してるぜ」
「え?」


独り言が聞こえたのか、首を傾げたまま阿笠博士は車を発車させた。それを笑顔で見送り、自分を付け狙う連中の元へと向かう。こっちの問題を片付けて、さっさと彼等のところへ向かおうかね。
コツン、と足音を鳴らして、白い鳥は飛び去った。

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