セメントで塗り固められた壁が崩れ、骨組みが剥き出しになる。ぱらぱらと落ちた砂は風に巻き上げられ、ただでさえ煙が充満しているこの部屋の視界を、より悪くさせた。だがそれでも、瞳に映っている者だけは変わらない。女物を思わすような派手な着物、左目に巻かれた包帯。細められた目には、以前と変わらず狂気が満ちていた。始まりは同じだったというのに、何処で違えたのだろう。どうしてこんなにも、悲しみの底へ堕ちてしまったのだろう。そしてまた、今も。


「珍しいな、お前が殺し損ねるなんて」
「誰かのおかげで寝不足だったからでさァ」
「そりゃご苦労なこった、ちゃんと眠れよ」
「言われなくてもそうするつもりでィ」


高杉と話している沖田は、とても穏やかな表情だった。一度も見たことがない、少なくとも俺達には見せたことがない顔だ。ぎりっ、と奥歯を噛み締める。爆発に乗じて、薬か何かが巻かれたらしい。びりびりと体が痺れて動けなかった。もし動ければ、今すぐにでも引き離してやるのに。土方達の方を見遣ると、彼等もどうにか動こうと必死になっている。せめて上半身だけでも起こせれば。ぐっと腕に力を籠め、身体を持ち上げようとする。その様子に気づいたのだろう、高杉はこちらに視線を向けた。


「よう銀時、久しぶりじゃねェか」
「……テメェそいつに何を吹き込みやがった」
「何もしてねェよ、俺はな」
「嘘を吐くな!」
「旦那」


銀時を宥めるかのように、沖田は優しく微笑んだ。


「嘘じゃありやせんよ」
「……っ!」
「そう、ご」


どうにか土方達は顔だけを上げ、悲痛な面持ちでこちらを見ている。しかし彼等には目もくれず、沖田はずっと銀時に目を遣っていた。まるで、二人を見たくない、と言うかのように。


「俺は自分から晋助の元に行ったんです」
「何、でだよ…、お前は、あいつ等を護りたいんじゃなかったのか!?」


どうしても認めたくなかった。真選組を裏切ったことも、新八を殺そうとしたことも。何かきっと、理由があるのだと。そう思いたかった。姉の一件のとき、土方が大切な存在だと言っていたじゃないか。伊東の一件のとき、必死になって近藤を護って、仲間を護っていたじゃないか。それなのに、どうしてだ。自分で明かそうとしたことではあるが、信じたくなかった。信じていたかった。


「それは昔のこと、でさァ」
「!」
「行こう、晋助」
「総悟ォォォ!!」


まるで叫びにも近いような声で、土方は沖田に呼びかける。去ろうとしたその足が、ピタリと止まった。


「……すいやせん」


一瞬だけ見えたその顔は、今にも泣きそうなほど弱々しいものだった。


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