落ち込んだときのアイツは、とにかく怖い。 表情とかの恐怖ではない、その行動に対しての恐怖、だ。 「何してんだよ」 どうにか苛立ちを抑えようと、ポケットからぐしゃぐしゃになってしまった煙草を取り出し、マヨライターで火をつける。やはり屋上は風が強い。吐き出した煙が左に流れ、すぐに掻き消された。目の前にある栗色の髪も、同じだ。振り向いた彼は、まるで煙のように、一瞬で消えてしまいそうだった。 「近藤さんが、心配してるぜ」 「…そうですか」 焦点の合わない瞳は、朧げに揺れる。またか、と思わず溜め息を漏らした。理由は分からない。けれど総悟は定期的に、酷く不安定になる。普段は馬鹿をやっているのに。そんな素振りを見せないのに。突然、切っ掛けなどなく、落ち込んでしまう。 「さっさと帰るぞ」 「嫌」 「駄々をこねるんじゃねェ」 「嫌だ」 こうなるとこいつは、梃子でも動かない。面倒だから放っておきたいが、場所が場所だ。総悟は今、屋上の手摺を越えた先にいる。つまり一歩間違えれば、死んでしまう可能性だってあるということだ。――そう、俺が怖いと思っているのは、これだ。落ち込んでいる総悟は、何をしでかすのか見当がつかない。道路に寝転がってみたり、不協和音を奏でているCDをずっと聞いてたり、他人を訳もなく傷つけたり。とにかく行動パターンがめちゃくちゃなのだ。 「いい加減にしろ、お前な…」 「土方さん」 背を向けたまま、総悟は話しかける。 「迷惑かけてすいやせん、でも一人になりたいんでさァ。土方さんが考えているような、危ないことはしないから。だから此処に一人でいさせて下せェ」 淡々と述べていく総悟からは、何の感情も読み取れない。けれどその肩は、かたかたと小刻みに震えていた。まるで苦痛に耐えているような、そんな感じだ。知っている。俺は、どうしてその肩が震えるのかも。知っている。俺は、どうして総悟がそんなことを言うのかも。 「行かねェよ」 「っ、何で…」 「死にたがりの野郎を放って、帰れる訳ないだろ」 感情が昂っているときほど声は無感情に、体は自然と震える。これは、こいつが嘘を吐くときの癖だ。他人はもちろん本人も気付かぬだろう、小さな癖。だから、ほら見ろ。図星だったから、こちらを振り返ったじゃないか。馬鹿だな。そんなことしたら、死にたいって顔に書いてあるのが丸見えだ。 - - - - - 3Zの沖田はメンタル面が弱いといいな。 そしていつも土方さんに支えてもらってたりとか。 |