「ただいまヨー」


日が暮れる前に万事屋へと戻ってきたところ、珍しく銀ちゃんが台所に立っていた。室内を見回すとここ数日夕飯の支度をしていた少年がいない。聞けばシスコンは姉ちゃんと買い物とのことだ。姉御に料理をさせるわけにもいかないし、最近は万事屋で家事全般を任せられていた。のんびりと姉弟で過ごす時間も必要なのだろう。


「今日公園でサド野郎と殺し合いしてきたネ。でも引き分けだったアル」
「またかよ。公園の修理代を請求されるこっちの身にもなれっつーの」
「ポリ公に全額払わせているお前が言うな」


お妙の隠し撮り写真を渡すからと近藤に話を持ちかけて、壊した遊具や施設の修理費を全て真選組に払わせているのだ。自分にも非があると認めている。しかし万年金欠野郎の懐から多額の札が飛んでいくと生活に困る。仕方ないとは言え、毎度毎度、税金泥棒に負担させるのはどうなのだろう。最初から喧嘩をしなければいいのだが、どうにも血を抑えることができないのだ、あの男には。そこで、はたと思い出す。酢昆布を五箱貰う代わりに頼まれたことがあったのだ。


「そういえば伝言預かったヨ」
「伝言?え、何、気味悪ィんだけど」


銀ちゃんは鍋に刻んだ野菜を入れながら、顔を青褪めさせた。言いたい気持ちはよく分かる。最初は野郎らしからぬ行動に、頭を打ったか、悪いものでも食べたか、と柄にもなく気遣ってしまった。サボりの口実として市中見廻りの最中に万事屋を訪れることができる。足を運ぶのが面倒ならば電話することもできる。そもそも気に食わない神楽に伝言を頼むなどあり得ないだろう。けれど垣間見えた真剣な瞳に、今回だけは特別だと了承した。奴なりに複雑な想いを抱えているのだろう。受け取った言葉がそれを物語っている。


「旦那は信じていたんですかィ、だって」


銀ちゃんはこちらに背を向けたまま、何も言わない。鍋が煮立ってコトコトと音を立てていた。部屋にはその音だけが響いていた。どんな表情を浮かべているか見えない。気にはなるけど奴同様、銀ちゃんにも複雑な想いがあるのだ。自分は知らない。知ろうとも思わない。自分と銀ちゃん。銀ちゃんとアイツ。アイツと自分。それぞれの関係に口を挟むつもりはない。二人の間にあったことは、二人だけで解決すればいい。自分はただ第三者として見るだけだ。銀ちゃんもアイツも同じ考えだろう。


「返信はあるアルか」
「…ねェよ。今度会った時にでも言うわ」


再び手を動かし始めた銀ちゃんの空気が変わった。そのことに面倒臭い奴等だなと思いながら酢昆布を齧る。いつもの駄菓子屋で売っている酢昆布よりも三十円高い高級品だ。酢の味加減がちょうど良くてとても美味しい。今度会った時に何処で買ったのか聞いておこう。


- - - - -
総悟を信じていたけど心配もしていた銀さんの話。総悟が元に戻った時に銀さんだけ驚いていなかったよね。戦闘中も余裕あったよね。だけど本当はすごく心配していて、でも心配していたなんて言えない銀さん。だから神楽が言ってたよって嘘吐きました。総悟はそれに気付いて旦那は心配していたんだなって嬉しく思ったけど、同時に、信じていたのか疑問に思いました。でも総悟も信じていたのか直接聞けない。だから神楽に伝言という形で聞いてもらおうとしたとかなんとか妄想。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -