市中見廻りを終えて屯所に戻るはずの足は、何故か万事屋へと向かっていた。呼び鈴を鳴らして出てきた眼鏡は、どうしたんですか、と疑問符を浮かべている。自分としても何か用事があるから来たのではない。ただ、顔を見たくなった。などと言えるはずもなく、とりあえず、ちょっと話があってと曖昧に答えた。幸いなことに部屋に酢昆布娘はいなかった。デカ犬と散歩に行ったらしい。旦那は何しに来たの、また面倒事でも持ち込んできたの、と露骨に嫌な顔をしている。ここまで来て具体的な理由がないことに困った。眼鏡は買い出しに行かなきゃと出て行き、万事屋に俺と旦那だけが取り残されたのだ。まさかあの眼鏡、逃げたのではないだろうな。


「それで用事は?」
「……特にないです」
「ああ、そう」


返ってきたのは意外な反応だった。てっきり文句の一つでも垂れるかと思いきや、気にする様子もなくテレビを見始めたのだから。どうすれば良いのか途方に暮れていると、旦那はソファをポンポンと叩く。隣に座れということか。旦那は旦那で突っかかってこないし、己は己でいつものような態度を取れない。気不味い。初めてそう思った。


「どうよ調子は」


隣に腰を下ろした自分に、テレビへと目を向けたまま旦那は問う。


「…変わりゃしやせんが…、変ですかィ、俺」
「知らね。ただ何となく聞いただけ」
「………」


何を言いたいんだこの男は。と、出掛かった言葉を飲み込む。勝手に押しかけたこともあるが何より調子が悪い。用もなく来た自分にそもそもの原因があるのだが、いつものように文句も言わず、面倒だと悪態をつくわけでもない。だから下手な態度を取れないのだ。己がボロを出しかねない。


「そういえば神楽が言ってたぜ」
「…?あのチャイナ娘が?どうせくだらねェことでしょ」


あの生意気なクソガキのことだ、旦那にあることないことを吹き込んでいるに違いない。


「エクスカリバー星人の時の、心配してたらしいぜ。アイツなりに」
「そりゃァ、…、珍しいこともあるモンだ」


天下一私闘会の時にも口汚く野次っていたと記憶しているが、旦那との真剣勝負に夢中で気にもしていなかった。そうして、ああ、なるほど、と言葉の裏を読み取り、ようやく頬が緩んだ。


「心配している素振りなんてなかったように思いますがねィ」
「俺に言うんじゃねーよ。神楽に言え」
「そうしまさァ」


どいつもこいつも似た者同士、面倒臭い奴等だ。心の中でそう呟きながら、自分もそうかと自嘲した。時計を見るとそろそろ屯所に戻らなければならない時間である。話の区切りがついたところでソファから立ち上がり、旦那に軽く頭を下げた。


「んじゃ俺ァ帰るんで」
「おー、帰れ帰れ」


ひらひらと手を振っている彼は一度も目を合わせなかった。面倒臭い。再度思ったけれど口には出さないでおこう。今はそれよりも別の感情で、心が満たされていたからだ。


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分かりにくい内容ですが続きます。


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