見覚えのある男が路地から現れ、少年に寄り添うようにして立った。ああやはり、そうだったのか、元凶はお前達かと、無意識に舌打ちをする。攘夷組織白夜党。白夜叉というくだらない存在を肯定し、その堕落を認めぬ組織だ。面と向かって話すのは、恐らくこれが初めてだろう。


「ご挨拶はまだでしたね、白夜叉殿。私は白夜党のリーダー、中村と申します」


貼り付けたような笑顔に思わず顔を顰めた。以前に桂を勧誘しようとした白夜党の一人だ。あの時は人質に取られた仲間の救出を最優先にしたため、直接話すことはなかったけれど。桂の推測通り白夜党の統率者だったのか。


「お前が苗村だろうが鍋村だろうがどうでもいいんだよ。そいつに何をした」
「…少しばかり、夢をご覧いただいただけですよ」
「そりゃあ興味があるねぇ。どんな夢だ?」
「なんてことはありません、ただの夢」


中村は目を細めてそっと少年の肩を抱いた。


「敬愛する者が殺された、とても悲しき悪夢ですよ」


瞬時に浮かんだのは師の笑顔と見ていることしかできなかった自分の姿。その言葉だけで十分だった。その言葉だけで全てを把握した。彼等に関わった者と同様に、麻薬を使用された沖田が今、どんな状態なのかを。


「ここまで言えば気付きましょう。今の沖田総悟は」
「…俺自身ってわけかい」
「その通り」


生きるための道を示してくれた、自分の全てだった先生を、世界に奪われた。自分が自分でなくなる程に怨んで憎んで。あんな思いを少年にさせるだなんて。手が自然と震えた。激しい怒りが心の中で渦巻く。


「あなたの記憶はあなた自身のもの。全てを忠実に再現したわけではありません。しかし知り得る情報を元に、出来る限り再現はしました。恩師を失い世界を憎んだ夜叉を」
「…テメェ、ぶっ殺す…!」
「できるものなら」


右手に持った木刀を力強く握って走り出す。まず先に中村だけは倒す。倒さなければ腹の虫が収まらない。しかし行く手を阻むように、沖田は素早く前に出て刀を構える。駈け出した足を止めざるを得なかった。さらに一歩踏み込めば、その刃が襲ってくると直感で判断したからだ。沖田の腕は真選組随一。切り抜けて中村に辿り着ける自信はない。


「今の沖田総悟にとってあなたは敵以外の何者でもありませんよ」
「そうだとしても俺の知る限り、野郎はお前等の手に負えねぇと思うがな」


いくら操られているとはいえ根本は同じだ。簡単に手駒となるとは思えない。どの程度の薬を使われたのか分からないが、人格に変化を来しても元は同じ。素直に動く野郎ではないはずだ。


「分かっていますとも。だから取引をしたのです。あなたの大切な人を殺した仇を教えます。その代わり我々に手を貸していただきたいと」
「は、よく分かってるな」


今の沖田には敵を殺すこと以外は何もない。どんな相手でもどんな手段を使っても、目的を成し遂げようとするだろう。敵は世界。生きとし生ける者、全てなのだから。


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