桂の話によれば、白夜党の目的は白夜叉と謂われた己を殺すことだそうだ。なんてことはない、過去に幾度もあった。それは多くの敵を殺し、多くの同志を見捨てた罰。背負わなければならない業だ。けれど共に日々を過ごしてきた仲間達、悪友とも言える真選組の面々は関係がない。巻き込まれたつもりが巻き込んだのは自分であって、今度はあの保護者に殴られるなあと思った。
甘味屋に着くと明け方のためか人はいない。周辺の店は閉じていて、人通りも疎らだ。ぽつんと長椅子だけが置かれた店には誰もいなかった。当然だ。店主は検査のため大江戸病院にいるのだから。それなのに何故、甘味屋は開いているのか。答えは簡単だった。


「万事屋さん」
「!…九楽々ちゃん!」


聞き覚えのある声にすぐさま反応したのは神楽だった。甘味屋の隣にある路地から出てきた小さな少女。九楽々という名の子供はにこりと人懐こい笑みを浮かべて佇んでいる。駆け寄ろうとする神楽の腕を掴んで、その体を背後に回した。少女が漂わせている異質な雰囲気と、もう一つの気配があったからだ。


「どうしたの?私、見たんだよ?眼鏡と一緒にいた人を」
「そうかい、情報提供ありがとよ」


壊れたからくり人形のように不自然な表情で話す少女を見て、神楽も察したらしい。番傘を持つ手に力が篭められたのが分かった。


「んで、その兄ちゃんは何処に?」
「何言ってるの、いるじゃない」


先程から感じている奇妙な気配が近付いてくる。


「そこに」


九楽々が指差す先は上空だった。すぐさま顔を上げると剣の切っ先が視界に入り、無意識に腰に差していた木刀を抜く。突然、見慣れない白が斬りかかってきたのだ。


「銀ちゃん!」


後ろから悲鳴に近い神楽の声が聞こえた。しかし答える余裕がない。交じえた剣は己を叩き斬ろうと、ギリギリと木刀を押してくる。丈夫な木刀で良かったとつくづく思った。両手で持ったそれに体重をかけると徐々に相手は押され、隙をついて刀を振り払う。ふわりと身軽に飛んだ相手は九楽々の傍に降りた。少年を見掛けたと言われた時点でおかしいとは思ったがやはり罠。相手は白夜党の者か。注意を怠ったためでもあるが九楽々まで利用するとは。己のせいであるとはいえ、許せない。


「銀ちゃん、まずいネ」
「あ?何がまず…い…」


睨みつけていた相手は朝日による逆光で顔がよく見えなかった。だから気付かなかったのだ。いや、それ以上に気配が異なっていたからだろう。想定はしていたものの最も面倒臭い事態になってしまった。


「…最悪だよクソッタレ」


目の前にいる白は紛れもない、探している沖田総悟だった。

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