真選組一番隊隊長が行方不明となる数日前。その日、桂は攘夷浪士の会合に出席していた。話題の中心は天人からの麻薬密輸。一般市民をターゲットに薬の売買を行う組織がいるとのことだ。組織構成等の全てが不明。情報を手に入れた者は即時報告。罪のない市民を巻き込むやり方は己の意志と反する。許すわけにはいかない。皆が気を引き締めた。そんな中、会合が終わり近くの茶屋で仲間と話し合っている時だ。身なりは一般人と変わらないが、他と異なる雰囲気を持った男が来た。


「貴方が桂小太郎か」
「……誰だ貴様は」


自然と腰に差す剣に手が動く。


「私は貴方と同じく攘夷の志を持つ者。名を白夜党と申します。以後お見知りおきを」


聞いたことがない組織の名にすぐさま仮説が浮かんだ。まさかと否定するも男の纏う空気が常人のそれとは明らかに違う。立ち上がり傍にいた部下に小さな声で告げた。噂の攘夷組織だ、近くに仲間がいないか探れと。知れ渡った名前ではあるが、やって来たということは狙いは自分のはずだ。もう一人の部下には下がれと言い、一歩前に出て剣を抜いた。抜き身の刀を持つ姿を見て、指名手配犯だと気付いたのだろう、市民が悲鳴を上げて逃げ出す。狙って行ったことだ。いざ斬り合いになれば巻き込まれてしまう。それほどまでに男は異質だった。


「俺に何の用だ?」
「そう身構えないでください、お願いがあって来ただけです」


何もする気はないと言うように男は両手を上げる。そして、思いもよらぬ誘いを口にした。


「今や伝説と謳われている白夜叉を我々と共に討ちませんか」
「…、…理由を聞こう。何故だ」


この場面において昔馴染みである者の名前が出るとは思わなかった。僅かな動揺は死に繋がる。一瞬であれ動揺したことに、己も弱くなったと自嘲した。そんな桂の様子に気付いていない男は、笑みを深くして語り出す。何度も耳にした言葉を。


「白夜叉は戦乱の世に振るった圧倒的な力を、己の利害のためだけに使っている。かつて共に戦い、死した仲間の無念を晴らさずに。国のため立ち上がった同士を見捨てたのです。あれは生きる屍と成り果てた。いずれは幕府と手を組み、我々の息の根を止めるでしょう。だからこそ貴方の力を借りたい」


幾度もあった勧誘にあの阿呆の顔を思い出して溜め息を吐いた。揉め事には慣れている。しかしあまりにも多い。人を引き寄せる不思議な奴ではあるが、誰彼構わずに引き寄せすぎだ。厄介極まりない。それに、思うことがある。


「…俺が貴様に協力したとしても、だ。白夜叉に敵うと?」
「旧知の仲であった貴方ならば、討つことができましょう」
「随分と持ち上げてくれるな。だが、断る」


最初からそんな願いなど叶えてやるつもりはなかった。友を手に掛けることなど、一人だけでも精一杯。これ以上は勘弁してもらいたい。


「…そうですか、残念です」


言いながら男はわざとらしく肩を竦めた。その眼には何らかの思惑が宿っているような気がして、握ったままの刀を向ける。此処で始末するべきだ、と直感が告げていた。何かが起きる。今、始末しなければ、言い知れぬ何かが。想定していたように男は笑った。先程まで浮かべていた偽りの笑顔ではなく、どす黒い心を表した気味の悪い笑みを。
その瞬間、背後で知った声が呻いた。振り返ると見知らぬ浪士に羽交い締めにされ、首に刃を突きつけられている同志の姿。他に白夜党の者がいないか探れと命じた者もいる。そういうことかと瞬時に察し、眼前に佇む男を睨んだ。
しかし何故、気配に気付かなかったのか。呆気なく仲間を人質を取られるなんて。焦りに息が乱れた。今度は動揺を察したらしい、男は嘲笑う。


「協力を得られないのなら手段は選びません。大人しくしていただきたい」


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