男は疑問に思った。
此処は何処なのだろう。
あの人は何処にいるのだろう。
どうして己は暗闇の中にいるのだろう。
浮かんでは消え、消えては浮かぶ、混濁した意識の中で呻いた。知らない憎悪が心を埋め尽くす。記憶にはない感情。こんなもの、持っていなかったはずだ。あの人を奪われた。奪われた?奪われた、のか?本当に?


「―――」


見覚えのない景色で誰かの後ろを歩いて行く。名前を呼んだ。待って、待って、置いて行かないで。あの人を連れて行かないで、と。誰だ。奪ったのは誰だ。殺してやる。その体を引き裂いてやる。死にたいと懇願する程の痛みを教えてやる。必死に手を伸ばした。この手で殺さなければ死ぬに死に切れない。刀を、息の根を止める刃を。


「目が覚めましたか」
「…、お前、は」


瞼を持ち上げると眩い光が差し込み、思わず目を逸らした。逆光でハッキリと顔は見えないが、若い男が自分を覗き込むようにして立っている。背後に数人いるのも確認できた。誰だこいつ等は、胸糞が悪い。今すぐに斬り殺してしまおうと腰に手を当てる。しかしすぐさま刀がないことに気付き、男を睨み付けた。


「申し訳ありませんが、刀は我々が預っています」
「…寄越せ」
「それはできません」


にこにこと貼り付けたような笑顔を向ける男に殺意が沸く。刀がないのなら奪えば良い。丸腰で向かってもこの程度の数ならば殺せるだろう、と直感で判断した。タイミングを見計らい、相手の隙を伺う。すると己の考えを読んだのか、男は両手を上げた。


「待ってください、私達はあなたと戦うつもりなどありません」
「…どういうことだ。じゃあ何を企んでる」
「私達は取引をしたいのです」


吐き気を催す笑みがさらに深まって、眉を顰めた。

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