その夜、アントニオは目を覚ました。何があったわけではない。ただ自然と目を覚ました。暗闇の中で規則的な寝息だけが聞こえる。みんなぐっすり眠っているらしい。アントニオも再び眠りに就こうとした。その時だった。寝息とは別に、呻き声が聞こえたのだ。慌てて辺りを見回すと、隣のベッドで眠る虎徹が苦悶の表情を浮かべている。余程の悪夢なのか、息も絶え絶えだ。一度、起こすべきだ。起き上がろうとした彼は、しかし自分の体が動かないことに気付いた。縛られているわけではない。見えない何かが上から押さえつけているようで、ビクとも動かないのだ。


「(…おい虎徹!…って、声、出ねぇ…!?)」


呼びかけようとするも喉からは掠れた音と息だけが出ていくばかり。誰かを呼び起こす音を発せられない。新手のNEXTの仕業かと疑うも、そうすれば異変に気付く者も出てくるはずだ。そうしてさらにアントニオは気付いてしまった。虎徹のすぐ傍、寄り添うように少女が立っているのだ。腰まで伸びる金髪と、人形のように白い肌。ぬいぐるみを抱きかかえる幼い少女は、青い瞳を虎徹に向けて微笑んでいた。混乱する頭でも分かる、少女の異様さ。なんと、少女は体が透けていたのだ。ドラゴンキッドが話した内容を思い出す。父親を探す少女の行方。まさか、と冷や汗が流れていく。もしもそうなのだとしたら、虎徹の傍にいるということは。


「(やめろ!)」


力の限り声を出すが、やはり音として声が出ることはなかった。しかし少女には聞こえたのだろう。笑みを消して途端に無表情になったのだ。アントニオは直感的に殺される、と思った。近付いてくる少女に鼓動が早まる。どくり、どくり。伸ばされた右腕が触れた瞬間、理由はないが死ぬと思った。


「邪魔をしないで」


少女の声を確かに聞き取ったアントニオは、直後、意識を失った。

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