『今日、来いよ』


電話越しから聞こえる甘い声は、嫌と言わせない絶対的な力があった。返事をする前に一方的に切られた電話の音は空しく部屋に響く。そういえば討ち入りがあるって会議で言われたな。いつだっけ。ぼんやりとした意識のままカレンダーを探して日付を確認する。赤丸が付けられていたのは明日。このまま彼の元に行ってもいいのだろうか。討ち入りがあるのだ。次の日となればちゃんと動ける自信がない。敵は殲滅しないと、近藤さんに迷惑を掛ける。うーん、と一人唸って、俺は決めた。よし、今日は断ろう。理由があるのだから無理にとは言うまい。一応常識のあるお人だ。流石に討ち入り前となれば諦めるだろう。


「…遅かったな」


機嫌を損ねるとアレなので手土産を持って、万事屋へとやって来た。いつも通りであれば素直について行くが、今日は駄目だ。ケーキが入っている箱をそっと差し出す。それを無言で受け取り中を確認したあと、変わらない表情で彼は言った。


「何これ」
「えっとですねィ、実は明日討ち入りがありやして…」


それで今回は無理なんです、と言うつもりだった。
旦那が腕を掴んで引っ張らなければ。


「ちょっ…、旦那!?」
「そんなこと、俺には関係ねぇ」


ぐいぐいと腕を引っ張って、旦那は俺を部屋の中に連れて行こうとする。まずい。まずいぞこれは。力では旦那に勝てない。以前あまりにも強引だったので抵抗したことがあるが、彼はビクともしなかった。


「勘弁してくだせェよ旦那!討ち入りがあるのにっ…!」
「だから関係ねぇって言っただろーが」
「そりゃアンタはそうですけど!」


このままじゃ一番隊隊長として隊を引っ張っていけない。近藤さんにも、土方の野郎にも迷惑を掛けてしまう。どうにかしなければ。催涙スプレーとか携帯していればよかった。ああ、畜生。と、そんなことを考えているうちに、俺はソファに押し倒されてしまった。ギロリと旦那を睨むと、感情の読めない瞳は僅かに光を見せた。幾度か見たことのあるそれは、紛れもない獣の目。


「お前は明日討ち入りに行く必要なんてねぇんだよ」
「……あー、アンタって人は…」


これだから獣は怖いのだ。


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沖田といちゃこらしたいために攘夷浪士を殲滅しちゃった銀さんの話。

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