「よう、何してんのこんな所で」 月明かりが綺麗な夜だった、のに、それに不似合いな男が一人近付いてくる。夜中にこの人と出会うのは初めてだ。いつもは甘味屋でサボっている、もとい仕事をしている最中によく会う。歌舞伎町から離れた薄暗い通りで、まさか万事屋の旦那に遭遇するとは。 「…旦那こそ珍しい、この辺にキャバクラはないですぜ」 「あのなぁ、銀さんは清純派が好きなの!あ、清純派って言ってもアレね、女の皮を被ったゴリラとかは好きじゃないから!見た目も中身も真っ白な人しか好きじゃないから!」 「誰もそこまで聞いてねェです、しかもそれメガネの姉上じゃないですか」 「いやっ、俺は一言もお妙がゴリラゴリラだなんて言ってないよ!」 「今言ってるだろオイ」 いつもの馬鹿げたテンションに溜め息を吐き、くるりと踵を返す。遠回りになるが旦那と話すのは面倒だ、さっさと屯所に帰ろう。 と、歩き出したのと同時に、思いっきり腕を掴んで引っ張られた。バランスを崩しそのまま背後にいる人物の胸にぽすんと収まる。 「…何するんでさァ」 「質問の答え、まだ銀さん聞いてないけど」 「別にただ散歩してただけでィ、いいから離してくだせェ」 背後から両腕で抱き締められているこの状態は気持ちが悪い。おいおい、何だってんだ一体。誰か知らない人が通れば、ある程度顔が知られている自分はいい笑いモンだ。それだけは勘弁してもらいたい。男同士で愛情がどうとか、そういった噂は嫌だ。けれど旦那の力は強くて、どうにも体から引き離せないし、がっちり固定されていて身動きも取れない。 「あのさ、」 「…っ、はい?」 「この着物、どうしたの」 「………どうした、ってどういうことですかねィ」 「沖田くんがこんな派手なの着てるなんて珍しいなぁって、それにさ、」 知っている奴の匂いがするんだよね。今まで見たことがない旦那の真剣な表情。それを見て、ああ、やっぱり知っているのだと思わず俺は笑った。 - - - - - 先程まで高杉とご一緒でした。 |