またかと溜め息を吐き、光り輝く石を懐に入れる。カンカンと金属製の階段を上ってくる足音。懲りずに追いかけてくる名探偵を今か今かと待ち、ちょうど自分のいる屋上に辿り着くタイミングで振り向いた。


「よぅ、名探偵」
「…ったく、いい加減にしろテメー」
「仕方ねぇだろ、降りるのにちょうどいい高さだったんだから」


どうやらここまで上るのに苦労したようだ。無理もない、20階建てのビルの階段を駆け上がるにはいくら少年の姿であれ、疲れるに決まっている。おまけにエレベーターも故障中なら尚更だ。けれどだからと言って諦める彼ではないと理解しているからこうしてのんびり待っていたわけだが。


「……またお目当てのモンじゃなかったのか?」
「そのようだ、いくら盗んでもキリがねぇ」


何十億の価値がある宝石でも、目的のものじゃないのならガラクタも同然だ。ぽいっと放り捨てるように名探偵に手渡すと、あたふたしながら彼はそれを受け取った。


「まだ元には戻れないのか」
「……ああ」


ここにちゃんと存在しているのに、存在していない。本物だけど本物じゃない。周囲を欺く偽りの存在だ。生きているのに、生きていない。いるのに、いない。けれど誰かの心に痕跡を残してしまった。江戸川コナンではない、工藤新一なのに。怪盗キッドではない、黒羽快斗なのに。けれどこの姿で知り合った誰かは、何処にもいないのにいると思っている。自分が関わってしまったから、関わらせてしまったから。いつかは消えていなくなる。何処にも姿が見えなくなる。たとえ真実を知っても同じだ。今ここには江戸川コナンがいて、怪盗キッドがいる。


「俺達って何者なんだろうな」


その答えは、誰も知らない。


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生きているけど存在しないはずの人間達。

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