静が、死んだ。

 その事実を知ったのは私が小学二年生の頃だった。
 そして同時期に、父も失った。
 二人の、突然の別れだった。
 あの頃感じた喪失感、虚しさ、悲しみ――。
 海底のように深く、暗かい思いは、幼い私には大きすぎて。
 涙が止まらなかった。
 ずっとずっと。
 ――それは、今も。

 今まで何も変わらずに話し合っていた親友。
 穏やかで、大きな手で頭を撫でてくれた父。
 彼らをなくした私の心は途方に暮れたように、たださ迷っていた。

 ――だから、やめた。

 人と深く関わるのはやめよう。
 不安になるから。
 人と深く話すのはやめよう。
 ……いつか別れがやって来るから。

 そう。
 私は自ら孤独を決めたんだ。
 やめてほしい。私に関わらないでほしい。
 大切な人は少なくていいんだ。
 たくさんあったら、別れが辛くなるだけでしょう?

 それから数年後、お母さんが新しい“父親”を連れてきた。
 そして私には血の繋がらない妹ができた。
 ――ああ……。

 これだけでいい。
 これだけでいいんだ。
 もう要らない。
 私には必要ない。

 なのになぜ、あの日の夏、私たちは出逢ったのか。
 眩しかった。
 何もかもが新鮮で――いや、懐かしくて。

 静と遊んだ思い出が蘇った。
 お父さんが優しく笑いかけた思い出が蘇った。

 ――涙が溢れた。

 ねぇ、静。お父さん。
 私は孤独を選んだけど、やっぱり一人じゃいられないことに気づいたよ。
 彼らと共に過ごしたほんの少しの夏の旅。
 それでも楽しくて、辛くて……永くて、短かったなぁ。

 一人じゃない。
 一人じゃないんだ。
 それをわからせてくれた君たち。

 ありがとうギルモン。
 ありがとう、太一くんたち。
 ありがとう、お母さん。お義父さん。

 ……ありがとう。


 今、太陽が沈むあの空へと向かって。






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