「あっ?!あっ、あっ、おおぉあ?!」

 ばしゃん!と派手に飛沫をあげて、丈が落ちた。ヘンテコな悲鳴に全員が海へ視線を投げる。
 大きな魚でも釣れたのだろうか。

「みんな、大変だよー!」
「どうしたんだい、ゴマモン」

 びしょ濡れになった丈が、釣糸に引っかかったゴマモンを釣り上げた。
 かかったのは魚じゃなくてゴマモンか。
 ゴマモンは一瞬ずぶ濡れの丈を見てポカンとなるが、首をぶんぶん振って大声をあげた。

「敵がやってくるんだ!!」
「なにィィィ?!」
「どこ、どこ?!」
「辺りには何も見えないけど」
「魚たちが後方二〇〇の距離で、メタルシードモンの手下を見かけたそうです」

 一同が騒然とする。
 海の家でみすみす子どもたちを見逃すような間の抜けた面が目立ったが、やはりダークマスターズのひとり。迅速で冴えた動きである。

「どうしよう」
「タケルぅ」
「ここもすぐ見つけられるでしょう。
皆さん、私の中へ。先行して振り切ります!」
『うん!』

 ホエーモンは子どもたちを飲み込むと、月の島を離れて海底へ潜った。
 一方、メタルシードラモンは海を悠々と泳ぎ回っていた。
 傍には半魚人のようなデジモン――手下のハンギョモンが子どもたちを血眼になって探している。

「エリア一三から十八、すべて異常なし」
「エリア二三および二四、同じく異常なし」

 通信で入る報告にハンギョモンは苛立った。メタルシードラモンの機嫌を悪くするのはごめんだ。

「いつまで手間取ってる!あんな図体がでかい奴、なぜ見つけられんのだ!」
「焦ることはない」
「はっ……」
「この海はすべてわたしが支配している。
奴らがどこへ向かおうと、しょせん我が手の内」
「御意」
「今はまだ、のんびりと狩りを楽しもうではないか……」
「御意っ!」

 メタルシードラモンは機嫌を悪くするどころか、すこぶる良い調子だった。
 狩人そのものの気分なのだろう。
 標的をくまなく探して、めちゃくちゃに破壊する。そして最後には笑うのだ――海の最強はこのメタルシードラモンだと!
 赤い瞳がうっそりと細められる。

「フフフハハ……。
選ばれし子どもたち。
狩りは始まったばかりだ――」



 たん、たたんっ、たたたたんっ。
 一種のリズムを奏でながら、指が踊る。会場は愛用のキーボードだ。
 ホエーモンの体内は、以前のように攻撃してくることはなかった。またバイ菌扱いされてはたまらない。
 天井からぶらさがったチューブを繋げ、光子郎はずっとパソコンと面向かっている。
 ヒカリの膝で猫のように丸まるテイルモンが、ふと問いただす。

「光子郎、お前は何をしているんだ?」
「ええ、ちょっと」
「なんだよぉ。もったいつけずに教えろよ」
「まあ、見ててください」

 倖たちは希代のマジックショーでも待つかのような心持ちで光子郎の言葉を待つ。

「――よし!つながった!」

 子どもたちは一斉に中央へ集まる。
 画面には深海が映った。
 なるほど、と倖はつぶやく。

「なるほどって、わかったのか?倖」
「まぁね、ギルモン」
「光子郎はん、これ何でっか?」
「ホエーモンの視覚情報をこのパソコンに経由させたんですよ」
「けいゆ?」

 パタモンが小首を傾けて訊く。

「つまりですね、この画像は今、ホエーモンが見ている映像そのものなんです」
「へえ。やるじゃないか」
「すっごーい!潜水艦みたーい!」

 パルモンの手を取って、回るミミ。その勢いたるや全速力のコーヒーカップそのもののようだ。
 当然、回されてるパルモンは吐き気を催すぐらいの気持ち悪さを味わうことになる。

「デジモンワールドのなせる業ですよ!」
「うっ」
「ヒカリ、大丈夫?」
「どうした?!ヒカリっ」
「だいじょうぶ……ちょっと耳が」
『ミミぃ?』 
「……ほえ?」
「……みんな、"ミミ"違いじゃないかな、それ」

 思わず倖がツッコんだ。
 名前を呼ばれミミもようやく止まる。
 パルモンがふらふらになって倒れた。

「そういえば、あたしも耳キーン」
「はっはっはっはっ。すみません。少し急いで潜りすぎたようです。
今、気圧を調整しますから」

 ホエーモンはいったん泳ぎを止めて頭頂部にある噴気孔から空気を出す。
 いくらか泡が海面へ昇り、やがて耳鳴りは止まった。

「あっ。治った!」
「潜ったことで気圧が変化していたんですね」
「ありがとう!ホエーモン」

 


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