太一は息をのむ。 ナノモンから空を救い出すとき、紋章が光った。本当の勇気を示した瞬間だったのだ。 「ヤマトくんは友情の紋章」 「友情……」 「ぼくのは?」 「タケルくんのは希望の紋章よ」 「希望の紋章かぁ!」 「光子郎くんは知識の紋章。 丈先輩は誠実の紋章。 ミミちゃんは純真の紋章。 篠原さんのは、運命の紋章」 「運命の、紋章――?」 倖は首に下げたタグを手にとり、視線を送る。 すみれ色のプレート――これが運命の紋章。 しかし運命とは、どういう意味なのだろう。 「そしてわたしは、愛情の紋章」 「へえ、愛情なんて空らしいじゃん」 「――そんなことない!そんなの全然わたしらしくないッ!!」 突然の叫びは、太一の肩を跳ね上がらせる。 「だ、だってよ、空はいつもみんなのこと考えて」 「みんなのことなんてどうでもいいの!! ほんとの……本当のわたしのことなんか何にも知らないくせに、勝手に決めつけないでよッ!!」 誰もが目を見開き、沈黙が広がる。 空ははっとなって「……ごめんなさい……」と目を伏せた。 「武之内さん。何かあったんだね?」 「わたしの紋章、光らないの」 「え?」 「わたしには“愛”がないから」 空はそう言って、座り込んだ。 太一もヤマトも木に寄りかかって一息吐く。 タケルがヤマトや倖の顔を覗き込んで、首を傾げる。 「愛がないってどういうことなの?」 「俺ぜーんぜんわっかんねぇ。 まったく女ってのはメンドーだよなぁ」 「茶化すな太一」 「今はそっとするべきだと思うよ、太一くん」 「冗談だよ」 「ピコデビモンに言われたの」 空はまた、ぽつりと言葉を溢す。 ――愛情の紋章ねぇ。お可哀想なあなた。 本当の愛情を知らずに育ってしまった。 それじゃあ愛情の紋章は光りはしません。 「バカだなぁ! ピコデビモンの言うことなんか嘘に決まってるじゃないか!」 「ううん。嘘じゃない。 あれは、わたしが女子サッカークラブにいた頃……」 空はそのクラブのエースストライカーだった。 ――大事な試合だった。 怪我を負った足を引きずって空は、母に何度も懇願する。しかし母は頑なに行かせなかった。 空の母親は華道の家元である。落ち着きのある母に空は反発することもしばしばあった。 ――正座もできなくなるようなサッカーなどやめてしまいなさい! ――嫌よ!わたしはお花よりサッカーが好きなの! ――空!それでも私の子供なんですか?! ――ッ……どうしてわかってくれないのよ!! 突然要を失ったクラブは太刀打ちできるはずもなく。 試合はひどい負け方をし、空はクラブを退部する羽目になったのであった。 「お母さんはわたしを華道の家元の娘としか見てないのよ。 わたしより家元としての立場が大切なの、そういう人なの。 だから、愛情を知らずに育ったと言われてもしょうがないのよ!」 空は紋章を振り上げる。が、太一がすかさず止めに入った。 「よせよ、空!」 「離して!!」 「たとえそうだとしても、ピコデビモンの言うことなんて信じる必要ねぇだろ……!」 空は腕を下ろして、大きく泣き出した。 太一は慌てて腕を離し、困惑しきった顔で倖たちを見る。 「お、おい泣くなって! なあヤマト、倖、こういうときどうすりゃいんだよ?」 「泣きたいときは泣かせてやれよ」 「うん、武之内さんの好きにしてあげよう?」 「倖とヤマトって大人だねぇ」 「まあ太一よりはねぇ」 着いてきたアグモン、ガブモンはのんきな会話を繰り広げる。 「空さん、ありがとう」 「え?」 「空さんが教えてくれたんだよね、キノコ食べちゃダメだって」 空の代わりにピヨモンが頷く。 空たちはピコデビモンの企みを止めるためこっそり後を着いていったのだという。 ヤマトと丈がレストランで働かされているときも、ミミのときも。 それを聞いたヤマトは目を見開いて「……知らなかった」と言った。 |