爆熱丸は白目をひんむいて倒れている。なにをしたのか、なんて推して知るべし。 「む?」 キャプテンの額センサーが点滅を繰り返す。ダークアクシズのご登場らしい。 「それでは、少しの間ここで大人しくしているのだぞ」 精霊をシュウトの小屋に入れるゼロ。 精霊は不思議そうに彼を見つめている。 生まれたばかりだから、見るものすべてが珍しく思えるのだろう。好奇心いっぱいなのは構わないが、今はまだ戦いに巻き込むわけにはいかない。 ……それにしてもあの小屋、ちゃんと窓にも鍵をかけただろうか?シュウトはそういうとこ抜けてるから、ちょっと心配だ。といって確認するほどの時間はない。 「行こう、ゼロ!」 「ああ。……爆熱丸!いつまで伸びているんだ!」 え?爆熱丸ったらいつの間に寝ちゃったんだろうなぁ。 きっとだれかが、それはそれは素敵な眠り歌を歌ってあげたからだね。……ねっ? ◇ ガンバイカーに乗って訪れた場所は、ネオトピアの街から離れた荒野のど真ん中。 ラクロアでの事件かあってか、あのダークアクシズ・バカトリオを見るのは久しぶりに思えた。嬉しくないけど。 「見つけたぞ!ダークアクシズ!」 「ネオトピアへの侵攻に対し、こちらは武装火器の使用を認められている。 侵略行為を停止し、速やかに撤収せよ!」 「ああ、あいつら空飛んでるよ!」 背中にバックパック――どうやら飛行ユニットを搭載しているらしい――なんかを取りつけ、宙に浮いている。 前はあんなもの持ってなかったはず。 「ちょこざいな!」 「ワタシより高く飛ぶなど、許さん!」 「いいなぁー。空飛べて……じゃなくて! そこの三バカ!今すぐ降伏しろー!!」 「だれが三バカだぁ! このくそ忙しいときに、邪魔な奴らめ! ああ?」 ザッパーザクたちの間に割り込むのは、奴らが毎回乗ってくる戦闘機。たしかコムサイとか言ったか。 でたらめな動きは明らかに理性を失っているように見える。機械に理性も何もない……とは思うが。 「あれ?色が違う!」 「新型艦か?」 普段はあの巨大戦艦――マグナムサイと同様に、赤黒かったはず。だが今回は黄色だ。 もしや先日、憂さ晴らしにとあたしが爆弾のスイッチを押してやったおかげで、前のコムサイは壊れた……とか? 「セレナがとどめをさしたんだったな?前のは」 「請求書とか求められちゃうのかなぁ」 「悪のダークアクシズが請求書求めてどーするっ! いいの!あたしたちは正義の味方なんだから、敵のモン壊そうが改造しようが許されるのーっ!!」 というあたしの叫びに呼応するかのように、新型コムサイはミサイルを次々と落としていく! 「うわあぁぁ?!」 「ひえぇぇぇ?!」 ガンバイカーは爆煙の中を掻い潜り、炎天號もスピードを上げて逃げる。 急停止するとキャプテンがビームライフルを構え、コムサイに向かって発射する!――と思ったが、コムサイもただやられるだけでは終わらないらしい。 穴が空きまくったチーズを思い浮かべてほしい。そんなおもしろい見た目の小型兵器が多数飛び出し、ビームを屈折させる! 「何っ?!」 「どわーっ!」 「うぅっ?!」 「火、ヒーン!」 ビームはゼロたちに向かって跳ね返された。 鏡の反射の原理でも使っているのだろう。一つだけ狙い撃ちしても屈折して周りの兵器と繋いでしまうから、壊すなら一気に壊さなければ。 「おおっ!」 「なかなかやるな、コムサイ!」 「いいぞー、いいぞー」 くそー。見下しやがって。 よく目を凝らすと、コムサイにはたくさんのコントロールホーンが装着されていた。機械を操るはずの角が、どうしてコムサイにくっついているのか知らないが――暴走の理由はあの角らしい。 大方、ドジな奴らだからついうっかりでコントロールホーンをつけてしまったのだろう。 「出でよ!ヴァトラスソード! ヴァイオレット・トルネード!」 青薔薇の花弁が、渦を巻いてコムサイに降り注ぐ。 進行を止めることはできた。――が、しかし。 コムサイは風に乗って高速回転しながら、ミサイルをあっちこっちに振り撒く! さっきよりひどくなってるぅ! 「どおっ?!」 「事態を悪化させてどうすんの、ゼロー!!」 「なんということだーっ!」 「やったー、ざまみろー!」 「なぁんかいい感じじゃん!なぁんか、いけそう?」 「やったー!」 このっ……! 今すぐにでも殴りかかりたいところだが、いかんせんコムサイの暴走弾幕のせいで逃げることしかできない。 ようやく魔法の風が止まると、コムサイは旋回する。ミサイル祭りが収まり、一息吐く。 ――同時に、炎の吐息がコムサイに向かって放たれた。 あの炎は?!……まさかっ! 「フェ〜ン!!」 シュウトの小屋に入れたはずの――幼き精霊だった。 「シュウトー!だから窓はちゃんと閉めろって言ってるのにー!!」 「わー!ごめんなさぁーい!」 人が口を酸っぱくして何度も言ったのに!結果がこの最悪な事態である。 ゼロを追いかけに来たところ、突然方向を変えたコムサイにびっくりしているのだ。 コムサイは鬱陶しく思ったのか、炎を突っ切って精霊をさらっていった。 「しまった!」 「待て!――くそっ……!」 ゼロは追いかけようとするが、彼の飛行能力ではとうてい追いつけない。 あっという間にコムサイは彼方へ飛んでいった。ついでにザッパーザクたちも追いかけていった。 |