鼻唄を歌いつつ、今日も平和を謳歌する。……平和っつったら平和なの!
 草原はさわわと鳴り、風はやわらかくあたしの頬を撫で……あ?なんか風が、強く、うん?

「デカボー?!」

 S.D.G.のボール型乗り物、デカボーがあたしの目の前に降りてくる。
 何かあったのだろうか。開幕早々平和じゃなくなったってわけ?!
 デカボーの扉が開くと、予想外の人物が出てきた。
 天才少年、しかし中身はめんどくさがりのムカつく奴!ベルウッドだ。

「ベルウッド、なんでこんなとこに」
「ちょうどいい、セレナ。
あいつを追っ払ってくれよ」
「あいつぅ?」
「メンドーなことは嫌いだっつってんのに、しつけーんだよ」
「ああ……」

 誰か察しがついたぞ。
 どこからか馬の蹄の音が聞こえてきた。

ベルウッドー!!
「……あたしだってメンドーごとはご免だよ」
「……だよなァ」


ROAD:8

爆熱丸奮闘記



「むぅ!そこにいるのはセレナ!
お前からも何か言ってやってくれ!」

 やっぱし。ベルウッドが必死こいて逃げてきたのは、猪脳みそこと爆熱丸のせいらしい。
 どうせこの様子じゃ、いつも通りの展開なんだろう。
 次元転送装置を直す作業をサボっていたところ、爆熱丸に見つかってデカボーで逃げてきた――うん。いつも通り。

「たしかに、気分次第でやるやらないってのは困りもんだけど……それにしたってしつこいのもどうかと思うよ、爆熱丸」
「なぁにいぃぃぃぃ?!俺じゃなくてベルウッドを叱るべきだろう!」
「そーゆー暑苦しいとこ見せられたら誰だってやる気削ぐわ!」

 次元転送装置を直してほしいのは十分わかるが、顔をでかくするな顔を!

「わかってんじゃん、オトコオンナ」
「はっ倒すぞお前!!」
「おおお、落ち着けって、オトコオンナ」
「うるせぇ切り株野郎!!
爆熱丸、もっとこいつを追いつめろ!作業場に監禁でもなんでもさせろぉ!!」
「セ、セレナ、俺もさすがにそこまでやれとは思ってないぞ」
「男ならずびしっ!と一つ言うなり決めるなりせんかい!
そんな中途半端な言い方だから伝わらないんだよ猪脳ミソ!!」

 ぜーはーぜーはー。
 一気にまくし立てたから息が切れた……。
 あたしの威圧にやられたのか、爆熱丸はたじたじになっている。
 ベルウッドは――その隙にとデカボーに向かって一歩二歩と歩みを進めるが、そうは問屋が卸さない。
 すかさず爆熱丸がデカボーの目の前へ回り込んだ。

「頼むベルウッド!」
「ひぇ!」
「貴様が修復しているあの転送装置なくして、俺が天宮(アーク)へ戻れるすべはないのだ!
はぁ……この募る望郷の想い、祖国の危機を知りつつ何もできない歯がゆさ!
ふにゃふにゃの装甲しか持ち得ない貴様ら人間だとて、我の中にあるこの熱き思いはきっと理解できよう!
なぜなら我らは、共にダークアクシズと戦う――っていねぇ?!」
「ベルウッドなら前に歩いていっちゃったよ」
「くうぅ〜!
ええい、待てい!」
「うわ!なんだよぉ」
「俺の話を最後まで聞けー!」

 またしても前へ回り込む爆熱丸。
 必死なのはわかるが、やっぱりしつこい。しつこい男は嫌われるのが世の定石である。

「そんな風に押しつけがましいのが一番嫌いなんだよ」
「その減らず口、たたき直す必要がある!」
「なんだとー!」
「武士道精神というものをみっちり教育してやる!」
「強制反対!アイムフリー!」
「かぁああ!いい加減に!!」
「いい加減にするのは二人でしょぉぉぉぉがぁぁぁぁぁ!」

 あたしのツッコミは、突如として噴き出した砂嵐によってかき消される。

『うわあぁぁぁぁ?!』
「な、なに?!」

 地面から現れたのは巨大なシールドマシン――と、見たことのある緑ロボットが四体。
 こいつら、もしかしてもしかしなくとも。

「ザッコと……都市はもう少し先ザコ」
「よし、このまま直進するザコ」

 ダークアクシズんとこのザコその他!ザコソルジャー共!
 ちらりとコントロールホーンも見えたし、いつも通り侵略しに来たらしい。
 ちょっと違うのは三バカ――ザッパーザクたちがいないこと。今回は彼らだけみたい。
 何を企んでいるんだか知らないけど、放っておいたらメンドーなことになりかねない。
 巨大ロボットはザコソルジャーを乗せたまま、また地面へと潜り込んでいった。
 ザーコザコザコザコザコザコ!とかいう奇妙な高笑いが、穴の奥底から響いてくる。

「な、何だったんだ今のは。
巨大な機械の上にいたのは、ダークアクシズどもに見えたが……」
「どっからどう見てもダークアクシズだったでしょ。コントロールホーンもあったし――って、どゅわ?!」

 またしても突然、背後の穴からロボットが現れる。
 先程よりも大きくはないが、人間からすりゃでかいもんである。

「お願いだグリン!
グリパパを止めて欲しいんだグリーン!」
「何者だ!」
「あれは、グリプスタイプの掘削マシーンじゃねえか」

 そういえば、ネオトピアメトロノームが近々できるとかなんとか、ポスターが貼ってあったな。
 その作業ロボットが彼らのことか。

「あ、初めましてグリン。
"グリポ"と申しますグリン」
「うむ、俺は爆熱丸。こいつはベルウッドで、こっちの一応おなごに見えるのがセレナだ」
「潰されたいんか、この猪脳ミソ……」
「なるほど、さっきのマシンはお前の親機、グリプス一だったのか」
「"グリパパ"だグリン!
グリパパは、変な奴らに操られてしまってるグリン」
「なるほどね。
大方、ダークアクシズたちは地下からネオトピアを狙って爆発だなんだって考えるっちゅーわけね」
「す、すごいグリン!その通りだグリン!」
「本人たちでもないのにそこまで考えるとは……」
「噂に違えねぇ悪どっぷりだな、アンタ」
「褒めてるつもりならぶん殴るけど?」

 ……ンな怯えた顔すんなよなぁ……。
 とくに爆熱丸。

「そうなんだグリン。
あいつら、地下施設をめちゃくちゃにして、そ、それで最後には、仕掛けられた爆弾で――うあああーん!」

 グリポは糸が切れたかのようにおんおん大泣きする。
 ロボットって泣けるんだ……ネオトピアの技術に驚きである。そんな場合じゃないんだけれど。

「お主!詳しく話してくれ!
――ええい、泣いてちゃわからん!父親の危機に男子たるもの、メソメソしている場合ではないぞ!
んん?……男子……だろうな?」
「ンなこたいいから爆弾だろ!」
「おお、そうだそうだ」
「グリポ、ほら、ゆっくりでいいから話してごらん。
あたしたち、ちゃんと聞いてるから」

 少し落ち着いたのか、ぐずつきながらもゆっくりと語り始める。

「あいつら、グリパパに仕掛けた爆弾をネオトピアの中心で爆発させるって言ってたグリン」
「むむ、なんだと!」
「お願いだグリン、グリパパを助けて!
グリパパは――グリパパは――
グリポの、たった一人の父ちゃんなんだグリン!」

 "たった一人の"家族。
 それは……そうね、大事だ。必死になって、当然だ。

「うっ……ううっ……」
「あーっ。また泣く――ん?」
「くっ……ううっ……」
「……泣いてんのぉ?」
「――な、泣いてなどいない!
父を思うその気持ちに、少し心を打たれただけだ。
あいわかった!お主の父親のことは、全て俺たちに任されよ!」
「なんだよ、俺たちって」
「――そぉぉぉぉよ!」

 ダァンッ!と地面に踏み込み、拳をつくって空へ掲げるっ!




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