「アグモン、ワープ進化! ――ウォーグレイモン!!」 「マトリックス・エボリューション!」 「ギルモン進化! ――デュークモン!!」 「ダブルスピリット・エボリューション! ――アルダモン!!」 「デジソウルチャージ! オーバードライブ!!」 「アグモン進化!――シャイングレイモン!!」 進化を遂げた彼らは飛び立つ。 一部始終を見ていたナマエらは呆然とその背中を眺める。 ふと我に返ったかのように、口を開けていたゼンジロウがまくし立てはじめた。 「何なんですかあの人たち! デジモンと合体したり?!デジモンに変身したり?! 何なんスか!何なんスかぁぁーっ?!」 「やかましいっ!」 どがごんっ! アカリの拳が炸裂した。 「彼らだよ。彼らこそが六人の英雄」 「ええっ、そうなの?」 「彼らを集めるのにとっても苦労したよ。 ――ま、これでようやくあたしの役目は果たせたってことだね」 ナマエはこの一年間、様々な次元を渡り歩いてきた。 それもこれもすべては今日、このときのため。 炎の翼を持つ赤鎧の魔人、アルダモンは両腕の銃口を敵に向けた。 「ブラフマストラ!」 連続して放たれる高熱弾が、ベノムヴァンデモンたちに命中する。 もうもうと煙が立ち上るが、ベノムヴァンデモン軍は鬱陶しそうに振り払って再び襲いかかる。 「ガイアフォース!!」 今度は竜人ウォーグレイモンの超高エネルギー弾が、降りかかる! 太陽の熱は強固な鎧を融かし、跡形もなく消えた。 が、まだまだ数が減らない。技を放った直後のウォーグレイモンを吸血鬼たちは狙う。 しかしそこへデュークモンが、聖槍グラムで突き刺す。 地面に叩きつけ、息を吐く間もなく向かってくる者を聖盾イージスからの光で撃破した。 爆風が吹き荒れ、真紅のマントが揺らめく。 一方、ヴェノムヴァンデモンの大軍をシャイングレイモンの炎剣が焼き払う。 「オラァ!」 次いで大が殴りにかかる。 なんでデジモンと素手で戦っているんだ、なんてツッコミは彼には意味のないものである。デジモンと渡り合えるのが、大門大なのだ。 「はちゃめちゃだなぁー……」呆れ半分のナマエのツッコミに、アカリとゼンジロウが頷いた。 マグナモンも同様に、何体かのベノムヴァンデモンたちを蹴散らしていた。しかし突如として力が尽き、ブイモンへと退化してしまった。 マグナモンは強大な力を秘めているが、長時間姿を保つことができないのである。 「大丈夫か、ブイモン?!」 「大輔ぇ、ごめん」 進化の負担は大きいが、まだまだ元気いっぱいだ。 ブイモンは両腕をぶんぶん振り回してアピールする。 デジヴァイスを取り出す瞬間、大輔の背後に一人の少年の声がかかった。 「待たせたな、大輔!」 「おっ。来たな、賢!」 ビルの上から登場したのは、おかっぱ頭の美少年、一乗寺賢。 その後ろには金髪の、これまた端正な顔立ちの少年が現れた。 「太一さんや拓也くんの仲間も一緒だ」 「来たぜ、太一!」 「ヤマト!」 二人の少年はそれぞれの仲間の元へ降り立ち、デジヴァイスを構える! 「よおし!行くぜ、ブイモン!」 「行け、スティングモン!」 「こっちも行くぞ、ウォーグレイモン!」 「おうっ!」 「拓也兄ちゃん!みんなの力、連れてきたよ!」 四つの光球がアルダモンを取り囲む。 氷。雷。風。光。 すべて仲間たちの力の化身である。 「よし。気合い入れていくぞ!」 太一とヤマトのデジモンは白騎士、オメガモンへ。 大輔と賢のデジモンは黒鎧の竜、インペリアルドラモンへ。 アルダモンは和の武人、スサノオモンへ、“一体のデジモン”に進化する。 「はぁーっ!デジクロスした!」 「ちゃいますな」 ゼンジロウの何度目かの驚きに、冷静なツッコミが入る。 振り返って見ると、てんとう虫に似たデジモンが飛んでいる。しかも関西弁で喋っているではないか。 「あのオメガモンはただの合体。 あっちはジョグレス進化のインペリアルドラモン。 そっちのは、エンシェントスピリットエボリューションで、スサノオモン言うまんねや」 「ご丁寧にあざまーす……って、どなたですか?!」 テントモン。太一たちの時空からやって来たデジモンである。 エンジェウーモンがナマエの元へ歩み、「すごい面子ね」とため息混じりに言う。 こうなっては自分たちの出番など必要ないだろうと、残念そうに苦笑を浮かべている。 「せっかく“本来なるべきに姿”になれたのに、力が見せられないわね」 「大丈夫!あたしはこの一年間、じゅーぶんエンジェウーモンの活躍を見たから! それとも、シャウトモンに見てほしかった?」 「ちっ……違うわよ!そうやっていちいちシャウトモンに繋げないで!」 「ごめんごめん。でも、圧巻だよね」 話している間にも、デュークモンが更なる力を得て進化をしている。 シャイングレイモンも秘めた力を解放し、オーラを放っている。 オメガモンとデュークモンが敵を斬り裂き、スサノオモンが大砲を放つ。 負ける気がしない。――確信がみんなの胸に宿りはじめた。 「オレもやるぜぇ!」 オメガシャウトモンも奮起し、大と共に殴る。 倒れたヴァンデモン軍団を焼き、斬り、撃ち抜く。 華麗な戦いにナマエは見惚れていた。 「さすがヒーローたちね。 ……彼も、ここに来ればよかったのに」 「あの人はイタリアでがんばってくれてるよ。 でも――うん、よかった。あの戦いを無事に乗り越えられたんだよね、遼くん」 ナマエの囁きにも似たつぶやきは、戦火の轟音でかき消されてしまった。 ひっそりと涙を浮かべて、心底嬉しそうに、微笑(わら)っている。戦の最中に似つかわしくない表情だった。 インペリアルドラモンの体が輝き、荒々しい竜から瞬く間に“人型”へと変わる。インペリアルドラモンファイターモードだ。 クオーツモンの真正面で悲鳴を上げるヴェノムヴァンデモンへ、大砲を構える。 「おっと、派手なのが来るぞ! みんな、隠れてろ!」 クロスハート一同はメタルグレイモンの背後へ回る。 『ギガデス!!』 あらゆるものを破壊する波動は、ヴェノムヴァンデモンのみならず周囲の敵とビルを消した。 振動が足の先から頭部まで激しく伝わり、全員はメタルグレイモンの背中にしがみつく。 「全部やっつけちゃった……」 「でもまだ本体は、かすり傷一つついていないわ」 「数でも勝てないと知ったな。 次の手が来る前に、こちらも準備だ」 クオーツモンは低いうめき声を上げ、虚空を見つめている。 英雄たちの計り知れないパワーを学んだ奴は、次はどんな術をもってナマエたちに立ちふさがるのか―― 絶対に負けないという確信の裏に、不安がじわじわと子どもたちの心を侵す。 ◇ ナマエたちは英雄を連れて、デジモンハンターたちが集う草原へ戻った。 彼らの決着は着いたらしく、辺りは静まっている。 「スゲェ、ほんとにスーパースターの勢揃いだ!」 タギルとガムドラモンはあんぐりと口を開け、横一列に並ぶ英雄五人を眺める。 同じぐらいの年端の少年たちなのに、明らかに何かが違う。一回り……いや、二回りほど。激戦を勝ち抜いてきた彼らだからこそ、備えられた凄みがある。 「俺は工藤タイキ! こいつはシャウトモン! そして」 「わたしが選ばれたハンターの代表――最上リョウマです」 深い紫の上下服に身を包んだ、上品そうな少年がタイキの隣に佇む。 一年前の戦争を間近で見ていた彼は今、憧れのタイキと共に戦おうとしている。常に引き締まっている顔が、いつも以上に強張っていた。 リョウマの手には重厚な金色の機械が握られている。 クロスハートが戦っている間、だれがベストハンターに相応しいか――タギルとリョウマは争った。 「残念だったな、タギル」 「いや。平気ッス。 街を平和にしてから、また追い抜いてやりますよ」 負けたときはそれこそ悔しくて悔しくて、しょうがなかった。 タギルもまた、タイキをとても尊敬していたのだ。月日はリョウマの方が長いけれど、憧憬の気持ちはだれにも負けないつもりでいた。 だけど、勝てなかった。 一体何が勝敗を決めたのか、タギルにはわからない。けれど悲しみはない。 それは多分、今まで決して相容れないと思っていたリョウマが、案外近くにいたと知ったからだろう。 同じ信念。理想。最高を出しきって負けたのだから、清々しさもあった。 タイキは小さく笑った。タギルも成長したもんだ、と。 いよいよ英雄たちは立ち並び、金色の機械に六つの光が伸びた。 一点に集約すると、鏡の反射光よろしく海へ放たれる。 電子的な音が鳴って、かの亡き魔皇の腕が引き揚げられる。 神の霊木から造り出した義手はたしかにバグラモンのものであったが、ずいぶん細く小さくなったものだ。 「あれがブレイブスナッチャー」超進化したアレスタードラモンの肩に乗りながら、タギルが言葉を漏らす。 「これでクオーツモンをハントできるんだね」デュークモンが宙に浮かぶ武器を見上げながら言う。 「頼んだぞ、リョウマ。 ……リョウマ?」 タイキは訝しげな表情をしながら、うつ向くリョウマを見つめる。 銀の髪が顔にかかって、彼の瞳を、真意を隠す。 ――嫌な予感がぶわりと立ち上った。 「困るんですよ、タイキさん。これがあると。 それに、あなたたち六人がそろっているのも、実に困る」 まだ少年らしさを残した声音が、静かに、だがはっきりと告げた。 直後一筋の白光がタイキとオメガシャウトモンを襲う! 「王様?!」 「タイキさん!!」 吹き飛ぶタイキをデュークモンが、オメガシャウトモンをインペリアルドラモンが受け止める。 大輔が拳を震わせ「お前!何すんだ!!」と怒号を上げた。 するとリョウマは口元を歪め、淀んだ翡翠の瞳をつり上げる。 不敵な笑み。今までずぅっとこのときを待っていたとばかりに、嬉々とした顔でもある。 「まだわからないのかい? わたしはクオーツモンの味方だ」 「バカな!彼からは邪悪を感じなかったのに!」 『もはや英雄は六人そろわない……』 「クオーツモンが……!」 ナマエが震える声で言う。とっさにエンジェウーモンが、彼女を抱き締める。 クオーツモンはレインボーブリッジの一歩手前まで来ていた。 進化の輪が一瞬で頭頂まで昇る。 体が、弾けた。 ――赤黒い球体が、紫の目をこちらに向けた。 『今こそ全世界をデジクオーツに…… ワタシそのものに変えてやろう……。 そのとき、不完全な生物である人間は、すべて削除(デリート)する――!!』 地を這うような声に、子どもたちが、世界が震撼する。 タギルは奥歯を噛みしめた。 憧れていたんじゃないのか。タイキさんと戦えることが、誇りなんじゃないのか。 戦って、ぶつけたあの気持ちは……嘘だったのか。 怒りと悲しみで手がぶるぶる震える。 何か言えよと、文句を垂れたくても、喉につまって何も出ない。 最初から全部嘘だったのか。 リョウマは……答えてくれなかった。気味の悪い笑みを貼りつけたまま、何にも言ってくれなかった。 Continua a Melody...? title nugget&夜途 Thank you for request 零弥! |