すっかり廃れた街並みは、ほんの少し前まで多くの人間が住んでいた。 彼らの日常を破壊したのは、目の前にいる球体――クオーツモンである。 シャウトモン、メルヴァモン、メタルグレイモン、ツワーモン、エンジェウーモン、ドルルモンにバリスタモンはビルの真上に佇んでいる。 人間界に降りてきたバグラモンも相当だったが、クオーツモンもかなりの大きさである。 「なぁーんでネネのクロスローダーに行ってるんだよ、ベルゼブモン。 そんなにメルヴァモンが心配かぁ?」 「下心丸見えね」 シャウトモンとエンジェウーモンが茶化すと、メルヴァモンが一笑する。 一年前までなら彼女も顔を真っ赤にして反論していただろうに「へぇ、そうなんだ」と、ベルゼブモンに訊ねるような言い方をする。 クロスローダーの中でカイザーレオモンが大笑いした。 『ずいぶん仲がよくなったようだな、ベルゼブモン?』 『なっ!カイまでふざけるな!どっちでもいいだろ。 同じクロスハートだ!』 ネネのクロスローダーの中で、ベルゼブモンは真っ赤になっているであろう。 クールな女神の戦士に、タイキが続く。 「そう、俺たちクロスハート! 今大事なことは一つだけだ。 最後のハンターが決まるまで、絶対耐えぬくこと!」 「変わらんな。お前は」 「なんか懐かしいわね、この感じ」 「やっぱりみんなといると心地がいいね。 でも、気を引き締めなきゃ!」 「ニックネームさんの言う通りです。 行きましょう!」 ユウが黄色のクロスローダーを掲げたとき、戦いの火蓋は切って落とされた。 彼らの力ある言葉は、デジモンたちを合体進化(デジクロス)へ導く! 「――デジクロス!! ツワーモン、スーパースターモン!」 「デジクロス!! メルヴァモン、ベルゼブモン!」 「デジクロス!! バリスタモン、リボルモン! ……くうぅ〜!一度言ってみたかったのよねー、これ!」 「デジクロス!! ドルルモン、ポーンチェスモンズ!」 「さてさて行こうか! デジクロス!! エンジェウーモン、カイザーレオモン!」 「クロスアップ!ツワーモン!」 「クロスアップ!メルヴァモン!」 「クロスアップ!バリスタモン!」 「クロスアップ!ドルルモン!」 「クロスアップ!プレーラモン・ステラ!」 タイキとキリハ。二人の想いは光へと変わる。 黄金の輝きがシャウトモンとメタルグレイモンを照らす。 「メタルグレイモン、超進化!!」 「シャウトモン、超進化!!」 「――ジークグレイモン!!」 「――オメガシャウトモン!!」 そして赤と青は ――交錯する! 「オメガシャウトモン!」 「ジークグレイモン!」 『ダブルクロス!!』 「――シャウトモンDX!!」 オメガシャウトモン。 ジークグレイモン。 黄金の鎧に身を纏った、二つの力を持つ竜人が、今ここに誕生した。 ヴァンデモン軍団は牙を見せつけながら襲いかかる。 蝙蝠の翼が羽ばたき、空を覆う。虫が群がる様にも見えて気持ち悪いことこの上ない。 「とりあえず私の出番ね。 ――ピオッヴィヴァーチェ!」 プレーラモン・ステラの腰回りの輪が白く煌くと、光の弾丸が降り注ぐ! ヴァンデモンたちの体を突き破るとぎゃっと短い悲鳴が上がり、次々と落下しては消えていく。 ――しかし、消えてはまた別のヴァンデモンが生まれ、向かってくる。 プレーラモン・ステラは舌を打つ。 「キリがないわね」 「なあに。オレたちの熱い魂(ソウル)がありゃ、こんなのすぐに焼き尽くしてやらぁ!」 クロスハートも各々散り、吸血鬼共をことごとく蹴散らしていく。 仲間が消されているというのに、ヴァンデモンたちは不気味な笑みを貼りつけたままだ。コピーに感情はないのだろう。 クオーツモン自身も微動だにしていない。ただヴァンデモンの生産に集中している。 ――ドルルモンがビルとビルを跳び移り、ドリルの尾で吸血鬼を捕らえる。空中へ放り投げ、ドリル爆弾を浴びせると数体のヴァンデモンが消え去った。 重火器を纏うメルヴァモンとバリスタモンは後方から狙い撃つ。ツワーモンも星形の手裏剣を打ち、斬り刻んでいく。 奴らはすばやく動くも、彼女たちは的を外さず確実に撃ち抜いていった。 そして前衛ではシャウトモンDXとプレーラモン・ステラが。 黄金の竜人と天使が空で何度か交差すると、吸血鬼たちを一緒くたに纏めて焼き払う。 余った者は光で撃ち、爪で切り裂く。 「シャウトモン!」 「おうっ!みんな、いくぜぇ!」 全員は子どもたちの前へ集まり、向かい来るヴァンデモンらに必殺技を放つ! 「セクシー・ザ・キャノン!!」 「ヘヴィ・ザ・ショット!!」 「ドルルチェックメイト!!」 「デジ忍法・星嵐!!」 「テンポ・コン・ブリオ!!」 「ビクトライスバンキング!!」 一斉に解き放った技は嵐と化し、奴らをのみ込んでいく。 ――ついに吸血鬼の大軍は残りわずかとなった。 「いやったぁ!」 クロスハート軍に疲労は見られない。まだまだ行ける。 デジモンたちは確信して、空に揺らめく影たちを睨みあげた。 ――すると数体のヴァンデモンはビルの上に立ち、マントで身をくるんだ。 先ほどまで恐れを知らず突っ込んできたのに、明らかに動きが違う。 奴らの足元にデータの輪が生まれ、頭の天辺まで昇ると――体が光を帯び、ぐにゃりと歪んだ。 貴族のような服装は灰色の分厚い鎧が突き破り、大きな翼が伸びる。 左右の肩が開くと、よだれがだらりと落ちる。エイリアン映画でも見ているような、気味の悪い光景である。 「進化した?!」 「あれは、べリアルヴァンデモン……!」 ナマエは奥歯を噛み締めた。 べリアルヴァンデモンへと“進化”をした奴らは、メルヴァモンたちをビルまで吹っ飛ばした。 衝撃でビルは半壊し、デジクロスが解けてしまった。無惨に横たわるメルヴァモンたちが、そこにいる。 とっさに避けたシャウトモンDXとプレーラモン・ステラは仲間たちの姿を悔しげに見つめる。 ――もう一方でも変化は起こっていた。 赤黒い甲羅で光を刺し貫き、都会ご自慢の高層ビルを凌駕するほどの巨体へと“成長”を遂げる。 「今度はヴェノムヴァンデモン――!」 どちらも共通しているのは赤い仮面と、獣臭い獰猛な笑みだ。 ヴェノムヴァンデモンは猛スピードで飛び回るシャウトモンDXらを捕らえ、地面へ叩きつける。 「ぐわああああっ!」 「きゃあああっ!」 悲鳴をあげて、彼らもデジクロスが解ける。 傷ついたオメガシャウトモンが辺りを見回す。コンクリート床はへこみ、ぐったりとするエンジェウーモンたちの姿が。 「大丈夫か、エンジェウーモン! おっさんにカイザーレオモンも……!」 その間にも次々と進化をし、数が増えていく。 クオーツモンはさらに力を上乗せし、数で押す作戦に出たらしい。 「まだだ、まだだぞシャウトモン!」 「おうよ。カワイイ後輩たちのためだ、なんぼだって体張れるぜぇ!」 タイキが駆け寄ると、オメガシャウトモンは立ち上がる。……その足取りは覚束ないが。 だが彼らの目に諦めはない。光は消えていない。 クロスハートは決して負けないと、硬い意志を胸に宿して。 「惚れたぜ、その心意気!」 ――大人とも、少年とも言いがたい、男の声が響いた。 瓦礫に佇む影が二つ。一方は背丈の大きい少年で、もう一方は人間ではない。赤いグローブをはめた、黄色い小竜。 小竜はオーラを纏って空を飛び、少年は拳を作って大きく跳躍する。 「うおおおおおりゃあああああッ!」 ヴェノムヴァンデモンの頬の位置まで跳び上がり、拳一つで殴り倒す。一体のヴェノムヴァンデモンが倒れると、後ろにいる二体を巻き込んでドミノ式に倒れていく。 超人的すぎる身体能力と、唐突すぎる登場にゼンジロウが声を張り上げた。 「何スかあの人ー! いきなりデジモンぶん殴ったぁー?!」 「間に合ったな。 俺が無敵の喧嘩番長! 大門大(だいもんまさる)だ!」 彼はその驚くほどの身体能力と身の丈でわかりにくいが、中学二年生の十四歳で、意外にもタイキたちと一つ違いである。 焦げ茶色の頭をハーフアップに結んだ、六人の英雄の一人。 「ほえ〜。あのアグモンは空も翔べるんだねぇ」 「まあいいじゃないか、アグモン」 のんびりとした声は、空を飛ぶ小竜に向けられている。 大のパートナーデジモンと同じ黄色の小竜――ただ彼には赤いグローブがついていない――と、ゴーグルをつけた少年がいつの間にナマエたちの隣に来ていた。 「俺は八神太一。こいつは相棒のアグモン!」 「えへ、よろしくね」 アグモンが片手をあげて挨拶をする――そのとき。ドミノ倒しとなったヴェノムヴァンデモンが炎を吐いた。 周りの建物を巻き添えにしながら、ナマエたちを焼け焦がそうと渦が迫る。 みんなが息をのむ中、ナマエは口端をつり上げた。 「エクストリーム・ジハード!!」 蒼い光線が炎の渦を掻き消した。 凛々しい声音は頭上から聞こえた。 超金属“クロンデジゾイド”を身に纏った、黄金の聖騎士デジモン――マグナモン。彼のパートナーである少年は、マグナモンをブイモンと呼んでいるようだが。 「いいぞ、ブイモン! 俺は本宮大輔!太一さんの後輩だけど、今は同い年だ」 「えっ?どういうこと?」 「あの二人は同じ世界の違う次元からやって来たんだよ」 「すっごいなぁ。あの二人がそろって見られるなんて!」 再び知らぬ内に、二人の少年が横にいた。 帽子を被った活発そうな少年と、少し気の弱そうな少年。二人ともゴーグルをつけている。 「オレ、神原拓也! ああ、オレだけデジモンいないけど、気にしないで」 「僕はテイマー!松田啓人。 パートナーはギルモン」 ギルモンと呼ばれたデジモンは、にこりと微笑んだ。 穏やかそうな表情は、タカトに似ている。 「こっちも負けてらんないぞぉ! アグモン、進化だ!」 「おう!」 「俺たちも!」 少年たちはそれぞれ“デジヴァイス”を取り出す。 ある者は声を張り上げ、ある者はデジモンと共に、ある者はデジモンそのものへ、ある者は己の魂を糧にして“進化”をする! |