今、再び。伝説がよみがえる。 伝説のヒーロー大集結! デジモンオールスター決戦!! 「それにしても」 ナマエは背伸びをして、辺りを見回す。 「こんなにもハンターが集まったんだねぇ」 「そうね。こんなに子どもが多いとは思わなかったわ」 それに対しエンジェウーモンが答えた。 島には先ほどよりも子どもが増えている。どれもはじめて見る顔だ。 彼らはデジモンハンター。時計屋に誘われ、デジモンをハントする子どもたち。 ナマエやタイキたちジェネラルとは違う。 「みんなもここに来たんだな」 と、タイキ。 傍にはアカリとゼンジロウがいる。 「時計屋さんのデジモンの力でここだけは守られているらしいの」 「クロスローダーを持っていないやつは危ないもんな。 っていうかオレとアカリきゅんは持ってないんでー、今ここでくれちゃうとかどお?じっちゃーん!」 「よさんか!」 がごげんっ! 時計屋にごますりしながら寄るゼンジロウに、アカリの鉄拳が落ちた。 見事なツッコミにナマエは拍手を送る。 「いやー、さすがアカリ! 一年ぶりに見たけど、ツッコミは衰えていないね!」 「さすがじゃないから!」 あの決戦から一年経った。みんなと会うのも一年ぶりである。 全員背が伸びて、大人びたように思える。 とりわけユウの成長には、ナマエは顔に出していなかったがかなり驚いた。一年で身長が大きく伸び、愛らしい顔立ちは引き締まり、凛々しくなった。姉譲りの端正な顔立ちだから、学校ではさぞモテモテであろう。 「タイキさーん!」 「奴が!また動き始めました!」 ……っとと。ほのぼのしている場合じゃなかった。 ナマエはぽやぽや気分を振り払って、タギルたちを出迎える。 「Ciao(チャオ)!偵察ご苦労様」 「ドーモッス!ナマエさん」 「ニックネームでいいよー、タギルくん。 みんなにもそう呼んでもらってるし」 「はい、ニックネームさん! ……あの、質問なんスけど」 恐る恐る手を挙げ、口を開くタギルに 「オマエはなんでデジモンを二体も出せてるんだよ?」 と、タギルのパートナーデジモンであるガムドラモンが質問した。 タギルは自分から訊こうとしていたことを先に言われ、「あー!!」なんて声を荒げる。 「なんでお前が言うんだよ、ガムドラモン!」 「別にだれが訊いたって構わねーだろーが!」 「そーだけど!!」 「ま、まあまあ」 ナマエは二人をなだめに入るも、なかなか止まらない。 こんなときでもケンカか、とユウはこっそり溜め息を吐いた。 見かねたタイキとシャウトモンが止めに入ろうとする。……そのとき。 「ちょっと!アンタたちうっさい!!」 雷のような怒号が轟き、とたんに二人は口を閉ざす。 見れば天女が、その姿に似つかわしくない表情で――仮面で顔は見えないが、雰囲気からして――タギルたちを睨んでいる。 「ナマエを困らせないでちょうだい! そうでなくてもここに来るまで大仕事して疲れてるのに、これ以上負担かけるようなことするなら怒るわよ!!」 『も、もう怒ってます……』 「なんだって?!」 『ごめんなさい!!』 タギルとガムドラモンはがっしりとお互いを抱き締めながら、首をぶんぶんと振った。 天女ってもっと慈悲深くて、こんな怖いようなものだったろうか。 「おいおい、大事な後輩をそんなビビらせるなよ」 「その後輩をきっちり教育し忘れてるのはだれかしら、バカキングさん?」 「だれがバカだネコ!」 「私はもうネコじゃないしそもそも違うって言ってるでしょーが!」 「……うーん。結局こうなるんだねぇ」 「姿は変わっても、みんな一年前と変わらないのね」 ナマエは頬をぽりぽり掻きつつ、ネネは苦笑を浮かべつつ。 本当にあのときに戻ったようだが、いつまでも感傷に浸ってはいられない。 「ほらほら、久しぶりだからって夫婦漫才しないの」 『夫婦じゃないっ!』 「そうなの?だってエンジェウーモン、シャウトモンの声が聞こえたからここまで来れたんじゃない」 「ばっ……違うわよそれは!」 「シャウトモンもやけにテイルモン、じゃなくてエンジェウーモンを信頼してるみたいだったしなー」 「タイキ!オメェ、何言ってんだ!」 「いい加減、お互い素直になればいいのに。 で、タギルくんの質問だけど。 ――時計屋さんの話も交えて、説明しようか」 ナマエは時計屋のおやじに視線をよこす。 すると時計屋は頷き、体の向きを海から子どもたちへと変えた。 サンバイザーのツバを少し直して、タイキに問いかける。 「工藤タイキくん。この場所に見覚えはないかの」 「忘れるわけがないよ。な、シャウトモン」 「ああ。ここは――皇帝バグラモンと最後の決戦をした場所だ」 正面に見えるレインボーブリッジ。あのときはそれの手前に、巨木と魔皇ダークネスバグラモンが佇んでいた。 己の弟すらのみこみ、猛威を振るった――バグラモンの姿は、今でも鮮明に思い出せる。 「あの戦いがクオーツモンを生んでしまったのじゃ。 ここには、かつてデジタルワールドを支配したバグラモンの力が眠っている。 それを最後の武器に変えて、クオーツモンをハントするのじゃ」 タギルたちが偵察している間、海中に潜れるデジモンを連れたハンターに“武器”を探すよう指示した。今も探索中である。 「クオーツモンは、増大し続ける人間界のデジタルパワーが生んだ、歪みのような存在だった。 それが君たちとバグラモンの戦いの影響で、命をもってしまった」 無理矢理時空をねじ曲げ、人間界に渡ってきたバグラモンの力は巨大なものであった。 命をもった歪みは、自らの体を粒子化してばらまき、人間界にデジクオーツを拡げていった。 そのために、クロスローダーからリロードするデジモンに制限が生まれたのだ。一体のリロード、そしてデジクロスも一体のみ――リロードしないなら二体のデジクロスは可能だ――という制約が。 「そして自らの強化のために、デジタルワールドから次々とデジモンたちを引き入れた。 データを奪うためにな……」 「あいつがオレっちたちを?!」と、ガムドラモン。 「だからデジモンたちはこの街に引き寄せられてくるのか。 ここがバグラモンとの、決戦の地だったから」と、タイキ。 「わしはクオーツモンにデータを盗られる前に、子どもたちの手によってデジモンを確保して守ろうとした。 同時に、来(きた)るべき日に備え、助っ人を呼び海外のはぐれデジモンに対処した」 だから時計屋は多くの子どもにクロスローダーを渡し、デジモンハンターとして役割を与えた。 デジタルワールドからこぼれ落ちたデジモンたちをハントし、クオーツモンの餌にさせないために。 続けてネネ、キリハが言う。 「今も世界中で発生しつつあるデジクオーツを、時計屋さんが集めてくれた戦士たちが食い止めてくれているの」 「オレもこの時計屋のオヤジに頼まれて、外国で戦っていたのさ」 「イタリアにもかっこいいデジモンを連れた姉妹を見たよー!」 「この世界の人間だけでバグラモンの遺した力を制御するのは不可能だ。 だからクロックモンの能力で異なる時間、異なる英雄たちを呼び寄せた。 彼女にも手伝ってもらったがな」 「はーい!あたしも頑張りましたよ、この一年間!」 ナマエは片手を挙げつつ、自分を指さす。自己主張が前より強くなった、だとかテンションがやたら高いなんてことは気のせいである。……気のせいである。たぶん。 「ナマエくんはタイキくんたちよりも出会う前に、ズィードミレニアモンと戦った。 時空間を渡る、なんてことは並の人間では多大なる負荷がかかり、できないことなんじゃが――時空を操るズィードミレニアモンの影響を受けて、彼女だけは負荷がかからない体質になったんじゃよ」 「ついでにオグドモンの空間に渡れたのも、あたしがその体質だったからなんだよね」 「え、でも俺たちも何もなかったぞ?」 「それはあたしが通った後だったからなんだね。 あたしは、普通の人間やデジモンでも通れる通路を作っていたってわけ。自覚はなかったんだけど。 タイキたちはあのとき、あたしが作った通路を通ったから何もなかったってわけ。 そんで、今回も道を作って英雄さんたちを連れてきたの」 「そうだったのか……」 「時空間の歪みの影響もみんなより少なくて、だからクロスローダーから同時に二体もデジモンを出せるのね。 ただし二体出したらデジクロスはできないんだけど」 あくまでもデジクロスの条件はタイキたちと同じなのである。 戦いを終えてイタリアに移住したナマエは、時計屋のおやじに出会った。来るべき日のために手伝ってもらいたい、と言われ、彼女は喜んで引き受けた。 一年間タイキたちとまともに連絡をとれなかったのはそのせいだ――とナマエは語る。 「あたしが呼んだ“彼ら”はかつてそれぞれの世界を救った英雄さんたちなんだよ。 そのリーダーたちが六人、力を合わせなきゃならない」 「タイキくん。君にハントに参加してほしくなかった理由はそれだよ」 「えっ?」 「ハンターたちのゲームバランスが乱れると言ったろう。 君はもう、六人の英雄の中に入っているからさ」 タギルがデジモンハンターを始めた頃、時計屋はタイキに言った。 “ハンターたちのゲームバランスがくずれる”。 タイキはクロスハート連合軍の主将だ。そして、すでにバグラモンから世界を救っている。 六人の英雄に相応しい功績であった。 「わしはデジモンハントを通じてハンターたちを育成しとった。 六人の英雄が力を合わせ、最後の武器を引き上げ復元する。 そしてそれを使ってクオーツモンを止めることができるのは、最強のベストハンターだけなのだ!」 時計屋が己の目的をすべて話し終えたとき、クオーツモンが動いた。 データを鱗粉のように地上へばらまくと、そのデータは形を成す。 伝承でも人に近い姿と語られる怪物、吸血鬼へと。あれは――ヴァンデモンだ。 闇の帝王と呼ばれる強力なデジモン。しかも数えきれないほどの大軍ができあがっている。 どうやらクオーツモンは数で攻める作戦に出たようだ。ただの球体のくせに、よく考える。 「タイキくん。 君とキリハくん、ネネくん、ユウくん、そしてナマエくん――かつてのクロスハート諸君で食い止めておいてくれんか」 時計屋はクオーツモンから視線をそらし、タイキへ向き直した。 グラサンの奥に隠された瞳が何を抱いているのか、よくわからない。 「その間に君たちと共に戦うベストハンターを一人決めなくてはならん。 無理は承知だ。だが――」 タイキは彼の瞳をじぃっと見つめ、深く頷いた。 「わかった。 タギルたちの可能性と、アンタのその目を信じる。 行こう、みんな!」 例え僅かな可能性でも諦めない。どんなひとだって信じる。 それがタイキだ。ナマエたちの知る、大きな器の工藤タイキだ。 みんなは否定しなかった。クロスハートの主将はタイキだから。みんなが、彼を信じているから。 「敵は物量で来る。 だったらこっちも、ワイズモンが仲間たちを全員クロスローダーに喚んである」 「おれたちって、どっちの組?」と、ゼンジロウとアカリが眉を下げながら訊く。 「クロスハートの諸君に、と言ったろ」 時計屋は真っ白なクロスローダーを、二人に手渡す。 ゼンジロウのクロスローダーは友情の青に。 アカリのクロスローダーは勇気のオレンジへ、それぞれ色が宿る。 「おぉ〜!憧れのクロスローダー! 言ってみるもんだー!」 「助かるぜ。一人、リロード一体だからな」 「あたしも結局、クロスアップしたら一体しか出せないし。 これで戦いの幅が広がるね!」 「そうだな。 頼むぞ、アカリ!ゼンジロウ! 俺のチームを三等分にしよう」 タイキが自分のクロスローダーを軽く振ると、いくつかの光がアカリたちの方へ泳いでいく。 「おお、バリスタモン!」 『ンガ!頼ムヨ、ゼンジロウ』 「ドルルモンにキュートモン!」 『アカリと一緒ッキュー!』 『よろしくな』 懐かしい面々ばかりで、端から見ていたナマエは微笑みを浮かべる。 戦いは好ましくないが、こうしてまた一緒にいられることが何より嬉しい。 「クロスハート、出撃だ!」 『おうっ!』 雄々しい声が答える。気合いは十分。闘志もメラメラ燃え上がっている。 ――いざ、戦いへ! |