※GL風なので注意


 ナマエ、お前は本当に可愛い娘だ。
 私が幼年期の頃、お前も同様に小さな子どもであった。
 だが小さなお前はとても男勝りだったな。女の子と、ではなく男の子と遊んでばかりだった。
 それでもナマエはやっぱり女の子だから、自分を着飾らない分私を着飾らしたな。今思えばお人形遊びのつもりだったのだろう。とても楽しそうであった。私も楽しかった。

「ナマエがリボンつけたらいいのに」
「わたしは似合わないよ」
「どうしてよ?」
「こんなに可愛いものつけて遊んだら、汚してしまうから。もったいないでしょ。
それに、ロップモンの方が似合うよ」

 そうやって笑うナマエが好きだった。でも、ほんのちょっぴり寂しげな顔が、ほんのちょっぴり切なかった。
 己の気持ちを閉じ込めるナマエがかわいそうだと思ったのだ。
 すくすくとナマエは育ち、いつしか男友達よりも女友達と付き合うことが多くなった。スカートを履くようになったり、アクセサリーをつけるようになったり、ずいぶん見た目を気にするようになった。
 私も幼年期から完全体へ進化し、アンティラモンになった。思考だって深くなる。
 ナマエを見て感じたのだ。
 女らしくなった、と。
 ヒトの娘とは、好きなひとができると女らしくなるという。
 好きな奴でもできたのだろうか。問うと、ナマエはわずかにうつむいて答える。

「……うん」

 こころが軋む、音がした。

「とっても綺麗なひとなの。
私の憧れで、私もそのひとみたいになりたいから、今がんばってるの」

 とたんにナマエが離れていくような、そんな感覚がして、私は恐くなった。
 ナマエだって恋だとか青春だとか、花咲く年頃だ。
 だけど、ナマエ……
 ナマエ。
 私は私自身が彼女に恋をしていることに気づいた。
 同時に背徳感に足を突っ込んだ。
 ナマエは人間で私はデジモン。そうでなくとも、デジモンは性別なんてないのに。なぜ恋情がわくのか。
 こんな気持ち(エラー)、いらなかった。私がデジモンじゃなければ!
 振り返れば、なんて女々しいことか。
 どちらかといえば私は女に近いだろう。可愛いものは好きだし、着飾ることも好きだし、それに――ナマエの前では綺麗でありたい。
 思考はまるで少女だ。まったく恥ずかしい。
 こんな気持ち、いらないのに。必要なんてないのに。
 そう、私はデジモン。完全体のアンティラモン。ヒトに近寄りすぎたのだ。
 感情などいらない。美しさなどいらない。花などいらない!

「アンティラモン、ねぇ?」
「なんだ」
「最近たくましくなったね」
「そうか」
「どうしたの?」

 最近一緒にいてくれなくなった。ナマエは眉をたれさげる。

「必要ないからだ。戦う者に美しさなど必要ない」
「そうかな。わたしはデジモンだってオシャレしていいと思うのに」
「守るときに花などつけていたら邪魔だ」

 空が暗い。
 曇天は透き通る青の一切をふさぐ。私の恋路もふさぐように。
 風は吹かない。それでいい。
 青が見えた瞬間、私は私のこころを止めることができなくなるだろう。
 青空はひどく恐ろしい。

「昔のわたしみたい」

 ナマエはくすくすと笑みを零した。
 てっきり悲哀に満ちているかと思っていたのに、拍子抜けしたではないか。

「聞いてね、アンティラモン。
今のわたしがいるのは、アンティラモンが似合うとか可愛いとか言ってくれたらからなんだ。
アンティラモンだって、とっても可愛いのに」
「ロップモン(むかし)と今の私では姿が違うぞ」
「今だってそうだよ。
それとも、進化したからオシャレやめたの?」
「――いや……」

 言えるはずがないだろう。
 お前が好きだから。でもこの想いは、きっといけないことだから。諦めるために、やめるのだ――なんて。

「……アンティラモンの全部が好き。
たおやかに戦う姿も、たまに見せる笑顔も、はにかむ顔も、私を心配してくれるときも、全部よ。
あなたは誰よりも綺麗なひと。わたしはそんなあなたが好き。
アンティラモンは大事なパートナーで、わたしの憧れ」
「ナマエ……」
「こんな想い、いけないのかなぁ。人がデジモンを好きになってしまうのはいけないことかなぁ」

 愛していたい、
 愛して
 
痛い


 雨が降る。
 青は決して見えない。
 ナマエを手のひらに乗せて、額を合わせた。
 こころが涙で濡れる。
 青空が見たい。ナマエと、二人で見てみたい。
 ナマエの瞳と、私の赤い瞳から雨がやむことはない。


title 夜途


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ほづみ !