「これで完成、と」 キーボードを打ち終え、くーっと背伸びをする。 背筋がまっすぐ伸びていく感覚が気持ちいい。あ、ジジくさいな。あたし。 さて内容の確認をするかとマウスを片手にプレビューボタンをクリック。 かちりと刻みのいい音が鳴って、画面が変わるのは一瞬だった。 『Cara アカリ 久しぶり。アカリも元気にしているようでよかった! あたしも変わらず元気です。 ……あれから一年経ったねぇ。 戦いが終わったあと、しばらくニュースにもデジモン関連の話が出てたけど――ここ最近じゃその影も見ることはなくなって、正直寂しかったりします。 でもこの一年で驚くこと、たくさんあったね。 キリハはアメリカに。ネネは香港でアイドルになって(あたしはこれに一番驚いた)、ユウくんはといえば、タイキに着いていきたいって同じ中学校に入学するもんねぇ。 アカリはタイキと違う中学校らしいけど、相変わらずマネージャーはやってるんでしょ? そろそろお付き合いしてもいいのに〜。あたし、その報告ずっと待ってるんだからね。 そうそう。タイキにまた新しい後輩ができたんだっけね? タギルくんだっけ。熱血タイプと聞いて、ユウくんも苦労していそう。 その三人でストリートバスケやり始めたってね。チーム名聞いたとき、思わず頬が緩んじゃった。 クロスハート、かぁ。なんか嬉しいな。 バスケだろうが何だろうがタイキたちなら大丈夫だよね。 そーいえばゼンジロウも元気かな?江東区一の剣士は変わらず、タイキに決闘を挑んでいたりして。……て、別の街に住んでるからそもそもあんまり会わないのかな。 イタリアに来て一年。ここの生活にもだいぶ慣れたよ。 あの戦いが終わったら結構すぐに決まっちゃってね、慌ただしい夏だったけど――アカリたちが見送りに来たときはとっても嬉しかった! 長期休みに入ったら日本に帰ります。そのときはみんなで、アイドル・ネネのコンサート観に行こうね! Ciao, a presto.』 イタリアの手紙というのは、最後の自分の名前は手書きで書くものである。……けど、向こうは日本だし、電子メールで送るからいいよね。 あたしは最後に『遥瑠』と打ち込んで、送信した。 空は快晴。空気も綺麗で、気持ちのいい昼だ。 絶好の散歩日よりだ。 ちょうどよく今日は休みだし、これといった用事はないし、散歩をすることにしよう。 カバンをとって、クロスローダー持って、鍵持って、イヤホン持って。 ……実はこのクロスローダー、音楽を聴ける機能があったりする。気づいたのはわりと最近なんだけど。 うん、よし。あとはパソコンだけだ。 シャットダウン画面になって電源が落ちたことを確認し、部屋をあとにする。 ――あの戦いから一年。 夏はこれから始まるというのに、“熱い夏”をすでに過ごしたからか、心にぽっかりと穴が空いたような――寂しい日々を過ごした。 今までいつも隣にいたテイルモンたちの存在が、あたしたちにはとても大きかったのだ。 あの鈴の音もしばらく聴けなくなると思うと、あたしはやっぱり寂寞(せきばく)を覚えずにはいられなかった。 一年経った今もそう。 でも昔とは決定的に違うものがある。 ……もう後悔は感じないのだ。 それに、テイルモンたちとはきっとまた逢えるという確信。 どこからそれがわき上がるのかは、あたし自身にもわからない。それでも信じている。 また、夏は始まるのだと。 お気に入りの歌が流れると、あたしも鼻唄混じりに小さく歌う。 二人の女性のヴォーカルユニットが紡ぐ歌は、あたしに戦いの記憶をよみがえらせる。 ――そう。そうだ。 バラバラだったあたしたちは様々な戦いを勝ち抜き、世界を守った。 テイルモンたちは――行ってしまった。 だけどあたしは可能性がある限り、諦めない。 そう教えてくれたのはみんなだから。彼らの声が包んでくれたから。 戦いのエピローグはもうついてしまったかもしれない。 小さな不安とか、くじけるとか、そういうことはこの先幾度とあるだろう。 ……これは、また新しい旅の始まりなんだ。 別れと、出逢いと―― 夢も絆もたくさん繋ごう。 たくさんの涙を流そう。 あたしたちの旅は始まったばかりなのだから。 祈りは旋律(メロディー)に載せて…… 「――Preghiera(プレギエラ)」 未来へ、紡いでいこう。 |