仲間とは何か。
 絆とは何か。
 憐憫とは。慈悲とは。
 なにごともまったく、我々には計り知れぬことばかりだ。





Melody-44
デジタルワールドの未来のために!
デスジェネラルとの友情!




「シャウトモン!バリスタモン!ドルルモン!
――デジクロス!!
――シャウトモンX3!!
「カイザーレオモンっ!」
「応!
シュヴァルツ・ドンナー!」

 黒い雷を纏った気弾はまっすぐに空気を貫きながら放たれる!
 戦いの幕はカイザーレオモンによって切って落とされた。

「X3とただのデジモンごときに何ができる?」
「くらえ!
ドラゴンブレストニックファイア!!
スリービクトライズ!!

 黒い気弾と混ざりあったV字の炎は、憤怒にいきまく炎とぶつかり、爆ぜる。
 今の炎のぶつかり合いは、どう見てもドルビックモンの方が勝っていた。

「他愛もない」
「いや、待て」

 嘲るスプラッシュモンの言葉に、ネオヴァンデモンがひき止めた。
 煙がもうもうとどこかへ行き――そこにはX3とカイザーレオモンが、無傷でデスジェネラルを睨み返している。

「ほう?」
「たかがX3と単体のデジモンにしてはやるな」
「言ったはずだ!心の熱さなら俺たちは絶対に負けない!」
「さあ次はどいつだ?」
「おもしれぇ。その減らず口がいつまで続くか――」

 くっ、とアポロモン――ではなくウィスパードが喉を鳴らす。
 黒い毛並みは艶やかに揺れ、金の双眸が愉悦に細められた。
 デスジェネラルたちは遊ぶように――感覚としては完全にお遊びなのだろうが――カイザーレオモンとX3を痛めつける。

「ナイトメアレイドッ!」
「ハイドロプレッシャー!」
「とどめだ。
ザ・ワールドショット!!
「X3!」
「カイ!」

 さすがの連続技にカイザーレオモンたちは耐えられなかった。
 体は衝撃に吹っ飛び、X3はデジクロスが解けてしまう。
 デジモンたちは限りなく冷たい大地に無造作に転がり落ちた。

「ふふふふふ。工藤タイキ、井藤遥瑠よ。
シャウトモンたちの心を連れて帰るつもりだったんだろうが、ここで心を失われれば、命そのものも失うんだぜ」

 カイザーレオモンたちに駆け寄り、寄り添う遥瑠たちを見下すウィスパード。
 相変わらず冷たい瞳だ。アポロモンという太陽が表の分、ウィスパードという黒点はひどく冷えた心を持っているのだろう。

「アポロモン!
俺はお前の心も連れて帰るッ!」
「馬鹿なことを。
アポロモンの正義の心はここには存在しない。
この体は黒点ウィスパード様が完全に支配しているのだ」
「なぜだ?!ウィスパードは完全に消滅したはずなのに!」
「暗黒水晶(ダークストーン)の力……」
「ミチ」

 険しい顔の遥瑠が、ぽとりと屋根から流れ落ちる雫のように零した。

「あなたたちをよみがえらせた媒体は、負のエネルギーを集めた暗黒水晶だから――悪の心であるウィスパードがここにいる。
そういうことね」
「なかなか賢いなァ、お嬢ちゃん。
その通りさ」
「そんな……!
アポロモンの正義の心が、お前に負けるはずがない!」
「ふん。なら貴様を潰して納得させてやる。
やれ!オレーグモン!」
「――!
オレが……」

 オレーグモンは一瞬、何か戸惑いのような色を浮かべたが――直後、“デスジェネラル”としての厳しい顔つきに戻る。
 この戸惑いは何だろうか?

「オレーグモン」
「タイキ、しょせんオレたちは敵同士。戦うのが運命よ!」
「本当にそれでいいのか」
「なに、」
「仲間を大事にするお前が、仲間を大事にしない奴の下で戦っていいのか!」

 ――ああ、そうか。
 遥瑠は即座に理解した。
 彼の戸惑いとは以前の遥瑠も抱いた思い。
 オグドモン封印のために、仲間と戦うことを決意したあのときと同じなのだ。
 いわば仲間への境界線。
 あのときの遥瑠は、境界線に迷うことなく離れ、タイキたちと戦った。
 しかしオレーグモンの場合は、まだその決意が固まっているようには見えなかった。
 仲間の価値を知っているからこその、迷い。

「――そうだよ。ダークナイトモンはあなたたちを復活させたのにも関わらず、心だけ取り除いたんだよ?!
それってつまり、信用していないってことじゃない!」
「っ?!」
「オレーグモン!俺たちはお前を想う心を信じてる!
そして心の奥底に、悪を憎む正義の心があることも!」
「オレーグモン、敵に惑わされるな」
「わかってる!」

 答えるオレーグモンの声には、たしかな焦燥と困惑がはっきり含まれている。
 ウィスパードは内心舌打ちをした。

(確かにおれだって始末したと思っていたダークナイトモンのやろうにいいように利用されるのは気にくわねぇ。
だが、こいつばかりはどうにも……)

 ――突然、視界が一瞬まっ白になる。
 あまりの唐突なそれと、覚えの“あるような”……“ないような”感覚に、ウィスパードは瞬く。



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