タイキが作戦を練る中、メルヴァモンは浮かぬ顔で、一枚の黒羽に視線を注ぐ。 穢れのない純粋な黒羽は美しい。 多分それは、ベルゼブモン自身の純粋な気持ちからのものなのだろう。 (――ベルゼブモン) カイザーレオモンもまた、黒羽に視線を注いでいた。 三度、彼は大切なものを喪った。……愛する師と仲間たち、そしてバアルモン。 バアルモンはベルゼブモンに転生して――また、死んだ。仲間を助けるために。 助けたかった。傷だらけの背中を追いかけたかった。 共に、戦いたかった。 バアルモンであった頃の彼に協調性はなく、よく一人で突っ込んでいたから。 ――カイザーレオモン。お前は彼をどう思う? ――バアルモン、ですか? ……ううん、なんていうか、難しい奴っていうか……。 もっと笑って、もっとみんなの輪に入ればいいのに。 だってあいつ、戦っているときも今も――ずっと、寂しそうなんだ。 だから俺、話しかけてみようと思う!話せば、きっと! ――ああ。そうしてくれ。 彼は女神の戦士の意を知らない。優しいお前なら、きっと伝えられるさ。 バアルモンの友達なら、きっと。 力こそが正義と剣を振るう彼の姿は寂しくて……幼いカイザーレオモンは、そんな彼に伝えたかった。 師匠の寂莫の笑みと、仲間の意味を。バアルモンがどれだけ、たくさんの人に想われていたかを―― 「――なあ、メルヴァモンの姐さんにカイザーレオモンよォ」 不意に、シャウトモンが二人の前に来て――気まずそうに頬を掻きながら、言葉を漏らす。 「オレは、さぁ……その、こーいうときにカッコつけたこと言うの、苦手なんだけどさ。 オレたちも全員、あいつが――ベルゼブモンが大好きだった」 「シャウトモン」 「お前……」 「二度とこんな悲しいことが起こらない世界を創ってみせる! 絶対だ!だから笑ってくれよ! それが一番、ベルゼブモンが喜ぶことだからさ」 言いたいことを言いきったシャウトモンは、清々しく笑う。 思わぬシャウトモンの激励に「……わかった」とメルヴァモンは微かに笑みを浮かべた。 「女の一番綺麗な表情は笑顔ってね。 威勢がないメルヴァモンなんて、らしくないじゃない。 ――それに、ンなことシャウトモンに言われなくったってわかってんでしょ。カイザーレオモンは」 「テイルモン、」 「何よ、シャウトモン。その顔は。 これからのことなんて万事承知よ。 私は、私の意志を貫くことに決めたのよ。もう逃げたりしないわ。 ベルゼブモンの思いをムダになんかさせたくないし。 それにアンタのいう“誰一人泣かさない、最強のバカキング”がつくる世界は……私の理想なんだから」 テイルモンにも、もう迷いはなかった。 自分がせねばならないことを決意し、そのための固い意志を手に入れたから。 もう迷っている暇などないのだ。臆病な自分を抱き締めて――前に進まなくては。 「……へっ。バカは余計だバカは!」 濁りのない決意を感じたシャウトモンは、いつものように笑い出す。 その様子に、メルヴァモンはくっと喉を鳴らす。 「ちっこいくせに、デッカイ奴だな」 「まあな。そこだけが取り柄だ」 傍らで眠るドルルモンは満更でもないように、ゆるりと目を細めた。 (……ベルゼブモン。お前は、やっぱりこんなにも愛されているよ。 気づけたんだな。気づけたから、行ったんだな) 伝わって、良かった。 カイザーレオモンは――深い優しさを込めたまなざしで、空を見上げた。 ◇ 兵隊デジモンらはすべて地上に降り立った。 やはりタイキの睨んだ通り、ウィスパードはクロスハートの生存を知らない。故に、地上に兵隊を送り込んだ。 ――楔に捕らわれた民たちを、彼なりの手で“救う”べく。 バグラ軍のフラッグはウィスパードの顔を映し、民たちは息をのむ。 『愚劣なる民たちよ。おれはアポロモン。 この国の神だ。 今日は最高に気分がいい。よってお前たちを解放しようと思う。 ――そう。 その苦しみから永遠に、だ』 これが、ウィスパードなりの“救い”であった。 救いというには吐きたいほどの非道な行いであるが。 『その体ごと負のパワーとなってバグラモン様のお役に立つがいい!』 「そんなぁ……!!」 「今楽にしてやる。 神に感謝せよ!」 一人の兵隊デジモンが銃口を向ける。 それを引き金にほかのデジモンたちも一斉に力を振るいはじめようとし――民は顔色を失う。 その様を、玉座の間でウィスパードはほくそ笑みながら眺めていた。 完全に目覚めたアポロモンに見せつけるように。 「やめろ! あれほどの非道な戦を行い、さらにこれ以上罪なき民たちを苦しめるというのか!」 「弱いことが罪なんだよ。 いったん大魔殿に戻る頃合いだぜ」 「っ!!」 「景気づけのごみ掃除だ」 |