「……キリハ。なぜだ。 一体何があった」 「お前に話すことなどない」 「話してくれ!俺たちは仲間だろ!」 「違う!!」 キリハはあらんかぎりの声で叫んだ。 どこか熱い想いを秘めた言葉は、遥瑠たちの胸に強く響き渡る。 「俺には仲間はいらない。……仲間は、いつか俺を裏切る」 「キリハ」 「キリハくん、あなたはいつか私に言った言葉――」 だったら強くなれ、ネネ! 俺がそうなったように――強さでしか悲しみは癒せない!! 「デッカードラモンが強き愛と呼んでいるもの――それがあなたを動かしているんでしょう?」 「話して、キリハ。 どうしてそこまで強さに拘るのかを」 「――ワシがお主たちに見せよう。 キリハの過去を」 答えたのは、デッカードラモンだった。 キリハは「なんだと?!」と驚愕に目の色を変える。 ――地に落ちたままのロケットペンダントが、ふわりと宙に浮かぶ。 穏やかに微笑む女性。鋭くも優しさをもった眼の男性。その真ん中に、金髪の少年が立っている。 キリハの家族写真だ。金髪と青い瞳は父母譲りらしい。 幼いながらに鋭い目つきは、父によく似ている。 「ワシはキリハの守護者。 強き愛を護る者――」 突然、世界が変わった。 真っ暗な空間にただ一人、泣きじゃくる男の子がいる。 デッカードラモンが全員の脳に直接映像を流し込んでいるのだ。 ――つまりこれは、キリハの過去。 十歳のときのキリハなのだ。 「キリハ、どうしたの?」 「六年生にゲームを盗られたんだ……。取り返してよ、ママ!」 母親にすがりつくキリハは、やはりまだ幼く、涙をいっぱいに溜め込んでいた。 母親は少し困ったように、しばし口を紡いで――「そうね、パパに聞いてみた?」と訊ねる。 「パパ、は……」 「キリハ。 自分で取り返せ」 父親が現れる。 映像だというのに威厳に溢れた姿に、思わず小さく息をのむ。やっぱり今のキリハは、この父親に似ている。 「相手は六年生だよ。勝てっこないよぉ!」 「戦う前から負けることを考えるな。 強くなれ!強くなってこそ、お前は“蒼沼キリハ”になれるのだ!」 「“蒼沼、キリハ”」 「そうだ!強くなければ生きている資格などないッ! 石にかじりついても勝てッ!!」 「あなた!キリハはまだ十歳なのよ?!」 「君は黙っていてくれ。 キリハは百以上の企業を束ねる蒼沼グループの総裁になる男だ」 ――蒼沼グループ。 はて、と思う。どこかで聞いたことのある名前だ。 キリハがペンダントを掴むと、映像は途切れた。 「親父は俺に帝王学を叩き込もうとつらくあたったのさ。 俺はそんな親父が嫌いだった。 だから厳しさよりも母の優しさに逃げた。 ……そんな泣き虫だった俺が、強き愛の持ち主だというのか?」 「そうだ」 「何が強き愛だというんだ?!」 「それは今もお主の中に眠っている。 自分でそれを見つけるのだ、キリハよ」 「――っ……?」 「答えはお主の中に在る」 答えは、すべてあの涙の日に在る。 ――再び映像が流れ込む。 医者と看護婦、そしてベッドに横たわる父親。 病院だ。キリハはまた泣きじゃくりながら、父親の手を取る。 「き、キリハ……」 「パパ、死なないで!ママはもう天国に行っちゃったんだよ……。 僕を一人ぼっちにしないでぇ」 「――キリハ、強く……強くなれ……。 強くなれ、お前には――ぐッ」 「パパ、パパァ!」 ――そうだ。 遥瑠は小片の記憶を手繰り寄せ、ついに思い出した。 三年前だったか――いくつもの企業を束ねる大手グループの社長が、事故で亡くなった。 名前はたしか、“蒼沼”だったはず。 場面は変わり、葬儀後だろうか――墓の前には大人数の大人たちが囲むが、時期に離れていった。 優しかった親戚も信頼していた部下たちも、すべてがキリハを裏切る。 ――キリハは、一人ぼっちになった。 家も、財産も、家族も失った彼には、ただ雨が降りしきる。 「そしてそのとき決めたんだ。 親父を越える、親父より強くなってやる――と! だから突然デジタルワールドに引き込まれたときも、俺は歓喜した。 ここなら思う存分強さを試し、俺が最強であることを証明できる。 俺は負けるわけにはいかないんだ。 そして、俺が頂点に立たなければ勝利を得たとしても何の意味もないッ!!」 |