「届いたぞ――その祈り!」 「なんだ、今の声?!」 「まさかホエーモン?!」 クロスローダーを取りだそうとした手をぴたりとやめた。 聞いたことのない声は遥瑠の答えに頷き、「我が体にしっかり掴まれ」と指示を出した。 よくわからないが、とりあえずそれぞれ鳥居の柱に掴まる。 すると地響きが鳴り、遥瑠たちが入ってきた出入口から大波が押し寄せてきた。 「なにっ?! ぬわあぁぁぁ!!」 今度は引き寄せ、フライモンたちはたちまち波にのまれて去ってしまった。 「俺たちを助けてくれたのか?」 びしょ濡れになったタイキは必死にホエーモンに問いただした。 ホエーモンはその低くも落ち着きある声色で「島の者たちの祈りが届いたのだ」と答える。 「島のみんなが祈ってくれたから、あたしたち助かったんだ」 「そうなのか……。 ありがとう、ホエーモン!」 鳥居から離れ、すっかり大人しくなってしまったシャウトモンを見やる。 元の赤みなど欠片もなく、全身が青くなっている。 毒が全身に回ってしまったシャウトモンは、もう間もなく死んでしまうだろう。 「ホエーモン、シャウトモンを助ける方法はないか?! こいつ、デジノワに紛れた爆弾をお前が間違って食べないように、体を張って爆発するような奴なんだ!」 「――わかっておる……」 天井から黄緑色の液体が、ボトリと音をたてて落ちてきた。 少々粘り気のあるようなそれに、「こ、これは何なの」と引き気味に遥瑠が尋ねた。 「これは我の油だ。 この油をその者の傷口に塗れ」 タイキが脱いだ手袋を持ちながら、遥瑠はその光景をじっと見つめていた。 油を掬い上げ、大きくえぐれた腹にタイキは塗った。 次の瞬間、みるみる内にシャウトモンの体は元の赤みを取り戻しはじめ――ゆっくりと目を開ける。 「シャウトモン……!」 「タイキ!」 「ホエーモンの油ってすっごいのねー。 ……テイルモンさん? 良かったデスネ?」 「な、なにが良かったなのよ?!」 「だってあんた、シャウトモンのことすっごいすっごーい心配してたじゃん」 「なっ……な……ミチ!!」 「あ?誰がオレを心配してたんだ?」 「聞こえなかったの、シャウトモン? だからテイル――」 「ミチ!!」 顔を真っ赤にして言わせないテイルモンがおかしくて、思わず吹いてしまう。 まったくあたしより素直じゃないじゃん、とこれは心の中で思うのだった。 「――そなたたち、人間か?」 「はい!」 「その通りです」 「なぜこのコードクラウンを欲する?」 「……ほっとけばバグラ軍に捕られ、島は支配されてしまう!」 「バグラ軍の奴ら、島の奴らを皆殺しにしてまでもコードクラウンを手に入れようとしてたんだ! タイキはオレたちデジモンのジェネラルだ! 救世主なんだよ!!」 シャウトモンの言葉に、タイキは照れたように「そんなすごいもんじゃないけど」とはにかんだ笑みを浮かべる。 「俺たちクロスハートは心を合わせて、デジモンたちに酷いことをする奴らと戦いたいと思ってる!」 (心を合わせて……だからクロスハートかぁ) 困っている者を「ほっておけない」というタイキの大きな器と――熱い心を持ったデジモンたちが集まったチーム。 それが“クロスハート”。 「ふふ……。いいね、そういうの」 「そなたはなぜ?」 「あたしは」 くすりと小さく微笑んで、――彼女は答えた。 「コードクラウンが欲しいからじゃない。 彼らの――クロスハートのひたむきな思いと純真な気持ちに心動かされたから、ここにいるだけだよ」 「ミチ……」 「……なるほど。 ではそなたはコードクラウンを欲していないというわけだな。 ――よかろう。 お前たちに託そう、コードクラウンを――」 |