「終わらせるわ!」 両手を思いきり降り下ろすと同時に輪もプレーラモンの正面へ降り立ち、 「テンポ・コン・ブリオ!!」 全員のありったけの力は、超エネルギーと変換し輪から放たれた! 虹色に輝くエネルギーはまるでオーロラのようで、空気をまっすぐに切り裂いてオグドモンに向かう! 同時にオグドモンも衝撃波動を打ち放った。 お互いの強力な力はぶつかり、凄まじい暴風を巻き起こす。 『いっけえぇぇぇぇ!!』 遥瑠たちの咆哮は、吹き荒れる風にも負けない。 信じているのだ。仲間たちとの確かな絆と、奇跡が起こることを。 『――そのまま、いけ……!!』 「……! アル、フォース――」 青い閃光が、一瞬迸るのを遥瑠は見逃さなかった。 「プレーラモン、今だ! っ――がんばれぇぇぇぇぇ!!」 「はああああああッ!」 精一杯の雄叫びを上げ、超エネルギーはオグドモンの衝撃波動を貫いていく! 「ナ、ント――?!」 しかし光はオグドモンを貫くのではなく、包み込んだ。 それは祈りの抱擁であった。 なんと暖かな光。これが彼女らの、遥瑠たちの想い。 「――我、贖罪叶い今“喜び”の光に包まれり……」 ひどく穏やかな声で、目を閉じる。 これが大罪の超魔王の――最期であった。 ◇ 戦いは終わりを告げた。 相変わらずこの世界の空は暗黒に包まれたままだが、これが暗黒の海の、あるべき姿なのである。 ……在るべき闇を、それ以上の光で照らす必要はないのだ。 『何事もバランスなんだな。光と闇が両立して、初めて世界になる。 ――なかなか難しいことだが、つまりはこの陰の世界は放っておく方がいい』と、ワイズモンは言った。 「……ミチ」 遥瑠は、ひたすらに地面とにらめっこをしていた。 何と言葉をかけたらいいか、迷っているのだ。迷う必要などないということに気づきもせず。 何度も顔を上げて口を開こうと思った。だが、いざとなったら何もできない。 こんなにも自分は弱かった。脆弱な意志だった。 自分の弱さに痛感する遥瑠の前にふと影が落ちる。 見上げるとそこには、少し怒ったような表情のプレーラモンが佇んでいた。 「プ、プレーラモ゙ッ?!」 ガツンッ!と頭を殴られる。いわゆるゲンコツだ。かなり痛い。 遥瑠は思わずその場でしゃがみこんで、痛む頭を抑える。 「プレーラモンスペシャルゲンコツよ」 「それ、いつだったかあたしがやったヤツのパクりじゃん……!」 涙目になりながらもしっかりとプレーラモンを睨み上げる。 二人の珍しいケンカムードに、ガブモンなどがおろおろとし始めた。 「と、止めた方がいいんじゃ」 「むしろこのままにしておけ」 「キリハさん?!だって、ミチ姉たちがあんなことするの初めてだし」 「何もケンカ全部が悪いことじゃないぜ、ガブモン。 ちょっと痛いことや苦しいことだってあっけれどよォ、お互いの気持ちがよォくわかるようになるんだから」 「シャウトモンさん……」 「それにアイツがああやって取り乱すのも見ていて十分おもしろい」 「キリハ、お前フラワーゾーンのことまだ根に持っているな」 メイルバードラモンのツッコミにキリハはあっさりと頷く。 プライド高い彼が好き放題やられたまま見逃すはずないのだ。それは周知の事実である。 キリハは狡猾にも「いい気味だ」と笑う。 「フン。しかしこれでフラワーゾーンでのことも何もかも、チャラにしてやる」 「キリハ……素直じゃねぇな、まったく」 不器用な優しさに、タイキはクスクスと笑みを溢す。 一方遥瑠らは両者睨み合いを続けるばかりで。 しかし痺れを切らしたのか、プレーラモンは大きく息を吐いた。 「ほんっと。アンタは頑固者でバカでバカでバカでバカな子よ」 「バ、バカってしつこいな!」 「バカだから言ってンでしょーが!! 仲間の意味すら見失ってたくせに!」 遥瑠は言い返す言葉もなく、口を紡ぐ。 先の戦いで秋山遼や一乗寺賢――何よりアルフォースブイドラモンと強い絆を作り上げたはずなのに、仲間の意味を誰よりも知っているはずなのに。遥瑠はプレーラモンの指摘通り、すっかりそれらの意味を見失っていたのだ。 「……あのね、ミチ。 私たちがこの姿になれたのは、あなたの心があったからなんだよ。 あなたの心の美しさが、私たちなの」 「プレーラ、モン」 「だからね遥瑠。 私たちをこの姿にしてくれてありがとう。 ――ありがとう」 「……っ」 プレーラモンは遥瑠を強く抱き締めた。 純白の翼は音をたてて遥瑠の体を包み込む。 涙が出るほどそれは、優しく、暖かい。 オグドモンもこの暖かさに包まれて眠ったのだろうか。 独りの寂しさに堪えた魔王にも、この優しさは伝わっただろうか。 |