「終わらせるわ!」

 両手を思いきり降り下ろすと同時に輪もプレーラモンの正面へ降り立ち、

テンポ・コン・ブリオ!!

 全員のありったけの力は、超エネルギーと変換し輪から放たれた!
 虹色に輝くエネルギーはまるでオーロラのようで、空気をまっすぐに切り裂いてオグドモンに向かう!
 同時にオグドモンも衝撃波動を打ち放った。
 お互いの強力な力はぶつかり、凄まじい暴風を巻き起こす。

いっけえぇぇぇぇ!!

 遥瑠たちの咆哮は、吹き荒れる風にも負けない。
 信じているのだ。仲間たちとの確かな絆と、奇跡が起こることを。

『――そのまま、いけ……!!』
「……!
アル、フォース――」

 青い閃光が、一瞬迸るのを遥瑠は見逃さなかった。

「プレーラモン、今だ!
っ――がんばれぇぇぇぇぇ!!」
「はああああああッ!」

 精一杯の雄叫びを上げ、超エネルギーはオグドモンの衝撃波動を貫いていく!

「ナ、ント――?!」

 しかし光はオグドモンを貫くのではなく、包み込んだ。
 それは祈りの抱擁であった。
 なんと暖かな光。これが彼女らの、遥瑠たちの想い。

「――我、贖罪叶い今“喜び”の光に包まれり……」

 ひどく穏やかな声で、目を閉じる。
 これが大罪の超魔王の――最期であった。




 戦いは終わりを告げた。
 相変わらずこの世界の空は暗黒に包まれたままだが、これが暗黒の海の、あるべき姿なのである。
 ……在るべき闇を、それ以上の光で照らす必要はないのだ。

『何事もバランスなんだな。光と闇が両立して、初めて世界になる。
――なかなか難しいことだが、つまりはこの陰の世界は放っておく方がいい』と、ワイズモンは言った。

「……ミチ」

 遥瑠は、ひたすらに地面とにらめっこをしていた。
 何と言葉をかけたらいいか、迷っているのだ。迷う必要などないということに気づきもせず。
 何度も顔を上げて口を開こうと思った。だが、いざとなったら何もできない。
 こんなにも自分は弱かった。脆弱な意志だった。
 自分の弱さに痛感する遥瑠の前にふと影が落ちる。
 見上げるとそこには、少し怒ったような表情のプレーラモンが佇んでいた。

「プ、プレーラモ゙ッ?!」

 ガツンッ!と頭を殴られる。いわゆるゲンコツだ。かなり痛い。
 遥瑠は思わずその場でしゃがみこんで、痛む頭を抑える。

「プレーラモンスペシャルゲンコツよ」
「それ、いつだったかあたしがやったヤツのパクりじゃん……!」

 涙目になりながらもしっかりとプレーラモンを睨み上げる。
 二人の珍しいケンカムードに、ガブモンなどがおろおろとし始めた。

「と、止めた方がいいんじゃ」
「むしろこのままにしておけ」
「キリハさん?!だって、ミチ姉たちがあんなことするの初めてだし」
「何もケンカ全部が悪いことじゃないぜ、ガブモン。
ちょっと痛いことや苦しいことだってあっけれどよォ、お互いの気持ちがよォくわかるようになるんだから」
「シャウトモンさん……」
「それにアイツがああやって取り乱すのも見ていて十分おもしろい」
「キリハ、お前フラワーゾーンのことまだ根に持っているな」

 メイルバードラモンのツッコミにキリハはあっさりと頷く。
 プライド高い彼が好き放題やられたまま見逃すはずないのだ。それは周知の事実である。
 キリハは狡猾にも「いい気味だ」と笑う。

「フン。しかしこれでフラワーゾーンでのことも何もかも、チャラにしてやる」
「キリハ……素直じゃねぇな、まったく」

 不器用な優しさに、タイキはクスクスと笑みを溢す。
 一方遥瑠らは両者睨み合いを続けるばかりで。
 しかし痺れを切らしたのか、プレーラモンは大きく息を吐いた。

「ほんっと。アンタは頑固者でバカでバカでバカでバカな子よ」
「バ、バカってしつこいな!」
「バカだから言ってンでしょーが!!
仲間の意味すら見失ってたくせに!」

 遥瑠は言い返す言葉もなく、口を紡ぐ。
 先の戦いで秋山遼や一乗寺賢――何よりアルフォースブイドラモンと強い絆を作り上げたはずなのに、仲間の意味を誰よりも知っているはずなのに。遥瑠はプレーラモンの指摘通り、すっかりそれらの意味を見失っていたのだ。

「……あのね、ミチ。
私たちがこの姿になれたのは、あなたの心があったからなんだよ。
あなたの心の美しさが、私たちなの」
「プレーラ、モン」
「だからね遥瑠。
私たちをこの姿にしてくれてありがとう。
――ありがとう」
「……っ」

 プレーラモンは遥瑠を強く抱き締めた。
 純白の翼は音をたてて遥瑠の体を包み込む。
 涙が出るほどそれは、優しく、暖かい。
 オグドモンもこの暖かさに包まれて眠ったのだろうか。
 独りの寂しさに堪えた魔王にも、この優しさは伝わっただろうか。



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