ドゥフトモンは「聞こえてるよ」と、ひどく弱々しい声で答える。
 ……貫かれた腹から、ふわふわと光の粒子が舞い上がる。アルフォースブイドラモンと同じように。

「ク、クロスローダー、に!」
「もう間に合わないさ……そもそも、最初に言ったろう。
僕は大半の力を失ったと。どのみちもう限界に近かったよ。
この世界を封印したら、僕は力を使い果たす。――すなわち、僕の運命はどうやっても変わらないってことだ」
「そんな、」
「キュートモン!」
「キュゥ!キズナオール!!

 緑の光がドゥフトモンの腹に当てられるが、傷は一向に塞がる兆しを見せない。
 治らない。死ぬのだ、彼は。

「Grazie、小さな戦士……もういいよ。それにしても、こうも簡単に事が運ぶなんてなぁ」
「え?」
「テイルモン。君は聞いていただろう。
オグドモンを封印することによって、僕らは永遠に閉じ込められることを」
「……!
気づいて、たのね」
「嘗めてもらっては困る。
だからこそ、君がいつかミチを止めることを信じて……あえてここまで進めてきたんだ。
オメガモンが連れてきた子供が、きっとミチの助けになってくれると……信じた甲斐は、あったねぇ」
「それほどオメガモンを信じてたんだな」
「盟友を、信じる。ベルゼブモンやカイザーレオモンらと何ら変わりはないさ」

 今も二人はお互い援護しながらオグドモンの気を引いている。彼らの間に結ばれた強い絆――ドゥフトモンはそれを知っていた。

「アンタも、立派な騎士だ」
「蒼沼くんからそんな言葉が聞けるとは思わなかったよ」

 冗談も、これが最後だ。
 だからこそキリハはそれ以上何も言わなかった。
 ただ、ドゥフトモンを見ていた。

「ミチ、これは君の戦いだ。
奴は暴走している。それを止めるには――受け入れるんだ」
「受け入れる……?」
「彼は罪を赦す力を持っている。それを否定してはいけないんだ。
彼自身が罪であり、その罪を受け入れること――つまり、君の場合は相棒を見捨てたという自責の思いを乗り越えなければならない」
「なァんだ、それならもうできてるじゃねぇか」

 え、と遥瑠は短く声を上げる。

「仲間がいることがわかったんだろ、ミチ」
「シャウトモン」
「そうよ。言ったじゃない、私たちにもその罪を背負わせて――ってね」
「テイルモン」

 周りをみれば、遥瑠にはタイキやネネ、キリハ、キュートモン、バリスタモンやドルルモン――たくさんのひとたちが集まっていた。
 これが“仲間”であり、遥瑠が壁を越えた証。

「あた、し……」
「ならもう、わかるんだね。
君がすべきこと、できること」

 思いをわかち合う仲間がいる。
 ドゥフトモンは笑って、消える体を力を振り絞って立ち上がらせた。
 もう、お別れだ。

「せめて最後の力を、君に託したい……受け取ってくれるかい、ミチ」
「うん。――うん、ドゥフトモンだってあたしの、大切な仲間だもの!」
「Meraviglioso」

 ドゥフトモンはレイピアを振った。
 すると遥瑠がかたく握りしめていたクロスローダーに

「クロスローダーが……!」

 光が灯る。

「色が、変わっていく――」
「それが君の本当の心。
……ミチ、どうか」

 恐れず、希望を持って。
 君の祈りは力になる……

「ドゥフトモン――」

 ドゥフトモンは、消えてしまった。
 光の粒子が風に乗って飛んでいく。
 流れる涙を拭うように、頬に寄り添う光を、遥瑠は優しく撫でた。

「ありがとう――ドゥフトモン……」

 泣いてばかりではいられない。
 遥瑠はクロスローダーを胸に抱き締める。
 濁りのない、柔らかな乳白色。
 それが真のクロスローダーの姿!

「テイルモン、カイザーレオモン、みんな!」

 遥瑠は新たな可能性に胸を高鳴らせる。
 爆音が鳴り響く場所で不思議と彼女の声は、全員の耳に入っていく。

「ごめんなさい!!
あたしのわがままに付き合わせて、ひどいことをして、言って!
たくさん傷つけてしまった!あなたたちの信頼を、あたしは知らんぷりしていた!!」

 でも。

「あたしにとってはみんなは“大切な仲間”だから」

 かけがえのないひとたちだから

「あたし、みんなと一緒に思いをわかち合いたい」

 あたしの祈り、聴いてくれるかな

「ジェネラルとしてみんなと戦いたい!!」

 どうか、今再びあなたたちと戦うことを許してくれますか

「もちろんだ!」
「戦力にならねば困る」
「私も、みんなとわかち合いたいわ」
「やっと素直になりやがって」
「マスターへの忠義は揺るぎません」
「ケッ、まあ聞いてやるよ」
「うん、うん!」
「ミチガ一緒ニ戦ウカラ、俺タチモ戦ウ」
「熱い友情ですわ〜〜〜!」
「この為の命だ。
――ようやっとお前が理解できたよ、ミチ」
「何だってやるわよ!
私たち、仲間だもの!!」

 仲間たちの、たくさんの声。
 大丈夫。独りじゃない。
 あたしは、あたしを越えた!

「テイルモン、カイザーレオモン。
一緒に戦ってくれる?」

 与えられた可能性。
 今ならきっと、導ける。

「イエスっ!」
「おうっ!」

 遥瑠はクロスローダーを掲げた。
 そして声高らかに、彼の言葉を紡ぐ!

「テイルモン!
カイザーレオモン!
――デジクロス!!

――プレーラモン!!

 光と闇が絡み合い、生まれたのは

 祈りを捧げる天使。



Continua a Melody-31




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