「なんか、必死だなって」 「必死だよ。これで必死にならないなんておかしいでしょ」 「まー、ミチが頑固者ってのはわかってたけど。 ここまで来ると強情モンね」 「何が言いたいの」 「何でも自分のせいにするなんて、欲張りな話じゃない?」 欲張り?……強欲と言いたいのか? 「だぁってミチ、アンタ人の話聞かないわ自分のことは話さないわでもう、参っちゃうわよ。 加えてなんもかんも自分のせいにして、これが強欲といわずなんというのかしら」 「加えて水臭ェんだよ。 何かっていうと隠してばっかでよォ?」 「ミチも物分かりが悪いな」 まるで悪態のオンパレードだ。 タイキもシャウトモンも呆れたように首を振る。だが、その笑顔は消えていない。 「ちゃんと心に刻めよ、ミチ。オレたちゃ仲間なんだ! 熱い絆で結ばれた、仲間!」 「オグドモンの戦いについては、俺たちが“ほっとけない”って思ったからやってるだけだよ。 ミチの為でも世界の為でも、果ては俺たち自身の為にやってる。 わがままなのは俺たちだって同じだ。 ――あと、サイバーランドの戦いも本心じゃないのはわかっていたよ。 ムダな戦いは嫌いだって言ってたろ。 それに、最後にあんな泣きそうな顔で“テイルモンをお願い”なんて言われたら……悪いことじゃないくらい、すぐわかる」 ――テイルモンを、お願い。 あの戦いの最後で遥瑠はタイキたちにそう言い残して行ったのだ。 まさか気づいていたなんて。遥瑠は驚きで瞬きを繰り返す。 「で、も……っ。 だからといってみんながこんな目に遭う必要なんてないんだ。 奇跡は何度も、そう簡単に起こるわけない。 だから、だからアルは……助からなかった……。 お願い、タイキ。この世界をあたしに守らせて。アルが守り抜いたこの世界を。 陰はすべてあたしが背負うから……!!」 『相変わらず頑固者だな、遥瑠は』 波紋が広がるように、声が、空間に響き渡る。 この声は。 「アルフォース、ブイドラモン」 『当たり。 久しぶりだな、遥瑠?』 ブレスレットから淡い青の光が灯ると、青い竜戦士――遥瑠が待ち望んだ彼が現れた。 アルフォースブイドラモン。 遥瑠にとって大切なひとであり、もう二度と会えぬと思っていた相棒。 そして、遥瑠が初めて愛したひと。 先ほど遥瑠を触手から逃がしてくれたのも彼だったのだ。タイキたちをこの空間に連れてきたのも、アルフォースブイドラモンだろう。 『君らが今度の救世主(ヒーロー)か? いや実に小さいというか若いというか』 「ンな……小さいだとォ?!」 『ああ、いやいやすまん。間違えた……うおっ』 ぼすんっ!とアルフォースブイドラモンの強靭な腕に、遥瑠はしがみつくように抱き締めた。 ……アルフォースブイドラモンの体は、冷たかった。 『大きくなったなぁ……遥瑠』 「アル、あるぅ……ぅ、っく、ひっ……アルゥ!」 アルフォースブイドラモンは手のひらで遥瑠を持ち上げ、優しく包み込んだ。 決して潰さぬよう。長い永い間会えなかった相棒の成長と涙を感じるために。 冷たいはずの彼の手のひらは、遥瑠にとってこのときだけ暖かく感じた。 タイキたちはそっと二人を見守る。 「良かった、生きてくれてて良かった……!アルフォースブイドラモン、行こう。 ここから出て、また戦おう!」 『それはできない』 アルフォースブイドラモンは、しかし頭を振る。 ――まさか。いやしかし、そんなこと……遥瑠は脳裏に浮かぶある嫌な予想を振り払う。 『おれはな、遥瑠。 ――もう死んでるんだ』 ………………うそだ。 なら、なぜアルに触れられる?アルはたしかにここにいる。目の前に在る。 タイキたちの目にも見えてる。それとも夢なのか。この世界が、遥瑠が見ている悪夢なのでは―― 『ズィードミレニアモンの、タイムデストロイヤーをくらって……おれは遠い異次元に飛ばされた。永い間、ずっとだ。 お前と離れたせいもあってか、おれの体を構成するデータは徐々に分解されていった。 今も、消える寸前なんだよ』 「うそ……」 『嘘じゃない。真実なんだ。 永遠に飛ばされながら、ただデータが消えていくのかと……絶望していたときだった。 彼が、おれを助けてくれたんだ』 アルフォースブイドラモンが指差す先は――シャカモンの石像。 「シャカモンに助けられたのか?!」 『ああ。 この暗黒の海を見張るシャカモンがな、ちょうど流れ行くおれを見つけて拾ってくれたんだよ。 今はオグドモンや――えぇっと、バグラモンだっけ?奴らの力が強くて、弱っちまってるんだがよ。 シャカモンのおかげでおれは今、データが分解される時間を遅くしてもらってんだ』 「じゃあ、クロスローダーに入ればいいじゃない!きっと何とか」 『ならないとこまで来てるんだよ。 もうこうして体を構成していられるのも時間の問題だな。 それまでに遥瑠やお前らに出会えて良かった』 もう修復できるほどのデータが残っていない――つまり今の彼は幽霊に近いような状態だというのだろう。 アルフォースブイドラモンは朗らかに笑いつつ、淡々と話を進めていく。 なぜそうも淡々と続けられる?もう、戻らないのに。 戻れないのに。 「そんな、あたし……信じたくないよ!消えないでよ、アルフォース! また一緒に旅をしよう。怖い相手だってあなたがいれば大丈夫だよ、みんなもいるもの。 また一緒に……いようよ……いよう……?」 『遥瑠』 |