「オグドモンを向こうの、陰の世界から出さないよう閉じ込めるの。 ――でも」 “それ”がテイルモンの悩みだ。 ある夜のこと、クロスローダーを置いてどこかへ行く遥瑠とドゥフトモンを見た。テイルモンは彼女らを追いかけ――聞いてしまった。 ――いいのかい、ミチ ――あたしの意志が強いってこと、知ってるでしょ。……いいよ、あたし一人が犠牲になれば終わる話。残されたカイたちや家族には申し訳ないとは思うよ。でも、あたしはそれ以上に会いたいから……それにまたこの世界に来たのは、このためなんだから。 封印はオグドモンの世界の中で行われる。つまり、封印をするドゥフトモンは自ら陰の世界に留まり、永遠に閉じ込められることになるのだ。 遥瑠は彼と共に残り、陰の世界に居続ける気である。 無論、そのことを知るのは遥瑠とドゥフトモン、盗み聞きをしたテイルモンのみだ。カイザーレオモンたちは知らない。知らないまま、遥瑠はカイザーレオモンたちをデジタルワールドに還すのだ。 「待てよ、じゃあ“会いたいひと”ってのはどうなるんだ?そいつは陰の世界にいて、永遠に探すのか?! ンなこと――」 「“タイムデストロイヤー”って知ってるかしら」 シャウトモンの問いを遮る。 タイムデストロイヤーとはズィードミレニアモンの必殺技である。時空の彼方へ飛ばされるという、想像を越える大技。 遥瑠のかつてのパートナーは、刺し違えてでもズィードミレニアモンを止めようとした。しかしタイムデストロイヤーをくらい、今もまだ時空の彼方へ飛ばされている――かもしれない。 「かもしれない、って」 「デジタルワールドと人間界は時間の流れに大きな差があるわ。タイキたちならわかってるでしょ。 人間界ではたった数年前の出来事でも、私たちの世界じゃずっと昔のことになる。 何万年、何億年も前の話――生きてるって、思う?」 タイキらは息をのんだ。生きてる確率など、ないに等しい。 だが遥瑠は会いたいと願う。祈る。 陰の世界にいるかもわからない場所で、ただ永遠に想い続けながら。 「……解せんな。どうしてそこまでして会いたいんだ。 可能性なんてまるでない、絶望的な状態なのに」 「謝りたいんだって」 「謝るだと?」 「理由は教えてくれなかったわ」 遥瑠はそれだけは口を開かなかった。泣くのを堪えているような様子で、頑なに口を引き締めていた。 それがひどく印象的でテイルモンは思い出す度に胸に小さな痛みが走る。 「そうまでしてまっすぐに、必死にがんばる遥瑠を応援する気持ちは十分にある。 だけど、私は!――私は、ミチを犠牲になんかしたくない。 大切な人を犠牲にした世界で、平和に生きていけるわけない……!!」 かたい握り拳に、涙がぱたぱたと落ちていく。 「――放っとけない」 頭上に影が差して、潤んだ眼で見上げる。タイキが、じっとテイルモンを見つめていた。 「目の前でこんなにも悲しいことが起きている。 もう悲劇は繰り返さないと言ったんだ。 何より大切な仲間を、そ知らぬフリしているなんてできない! だから俺は、放っとけない!!」 「私もミチに救われたわ。ダストゾーンでのこと、ヴァンパイアランドのこと……だったら今度は私が救う番ね」 「ネネ」 「アマちゃん共め。――だが、あいつには借りがある」 「キリハ」 三人のジェネラルのあと、続々と声が上がる。それはどれも暖かなものであり、仲間を思う気持ちであった。 テイルモンはまた、熱い涙が零れていくのを感じた。 「決まりだなっ」 白い歯を見せて笑うタイキ。 するとテイルモンの目の前に手が差し伸べられた。――メルヴァモンだ。 「悪かったね、アンタの一番大切なひとにあんなこと言ってね。 助けようじゃないか、力づくでもなっ!」 「……ええ、そうね。 本気で伝えるわ、“こんなにも仲間に思われてるのよ”って」 そうしてテイルモンはようやく穏やかな笑みを見せるのであった。 陰の世界に行く為に、タイキらは遥瑠と別れた場所へ再び戻った。 ワイズモン曰く「ハニーランドのときと酷似しているね。歪みの中心を突き止め、みんなで壊せば或いは」と。 歪みの中心は、抉られた大地の中心にあった。テイルモンは闇の力を知ることができるから、あっさりと見つけられたのだ。 「ッしゃ、行くぜェ! ――ロックダマシー!」 「ヘヴィスピーカー!!」 「ドルルトルネード!!」 「メガフレイム!!」 「プラズマキャノン!」 遠距離から攻撃を放てるデジモンたちは一斉に中心を狙う。 互いの攻撃が混ざりあい爆発し――狙い通り、中心がぐにゃりと歪みはじめた。 「まるでブラックホールみたいね」 『この穴に入ればたどり着くだろうね』 「――よし、行くか!」 意を決して、タイキたちは陰の世界へ乗り込む。 タイキのクロスローダーに身を寄せるテイルモンは、間に合いますように――と必死に祈るのであった。 Continua a Melody-29 |