禍々しく佇む巨城――バグラ大魔殿。
 邪悪な気に満ちたそこには、すべてのコードクラウンを手にいれた皇帝バグラモンが君臨している。
 バグラモンはデジタルワールドを七つの王国にまとめると、住民たちを苦しめ負のエネルギーを集めた。
 彼の後ろに輝くコードクラウンもいつしかの光を失い、淀んでしまっている。
 バグラモンの弟であるダークナイトモンは軍の全権を委任され、今まさに七将軍の会議を開こうとしていた。
 艶かしい黒鉄が「魔殿提督ダークナイトモンである。
揃ったな?七将軍の諸君」と言うと、暗闇に七つのビジョンが浮かび上がった。
 各々を模した七色のビジョンに、影。
 彼らこそ今デジタルワールドの平和を脅かす悪の将軍――“デスジェネラル”。

「日輪のアポロモン
水虎のスプラッシュモン
金賊のオレーグモン
月光のネオヴァンデモン
木精のザミエールモン
土神のグラビモン
そして火烈のドルビックモン
各々の軍はどうかな?
抵抗を続けていた反乱分子はどうなったかね?」

 と、そこでまず報告を上げたのは竜のシルエット――ドルビックモン。

「わたしの第一の国では、まごまごしたままです。
――どうやら性懲りもなくまた来たようだ。
遊んできてやりますよ」
「ふふ、頼もしい奴」
「これでまた、デジモンたちの悲鳴が轟き渡りますね?提督」
「オレたちが苦しめたデジモンたちの、負のエネルギーによって!」

 デスジェネラルは笑った。
 三元士を越える悪の手先たちに、ダークナイトモンは濁った眼を光らせる。

「――すべては来るべきD5のため」

『来るべきD5のため』




Melody-19
新たなる世界へ!
火烈将軍のドラゴンランド




「……ん、うるさいな」

 洞窟全体が大きく揺れ、頭に砂塵が降りかかる。
 この揺れや響き渡る爆音は地上からのものだ。大方、キリハが七将軍が一人――ドルビックモンに挑み、戦っているのだろう。
 遥瑠が以前聞いた話に寄れば、キリハはドルビックモンに敗けたのだという。
 七将軍はこれまで戦ってきたデジモンたちの中でも比較にならない強さを持っている。……正直、勝てる見込みは彼にもないはずだ。

「しかし今日はまた一段とヒドイな――まさか、死んだりとかはしないでよね。キリハくん」

 野垂れ死ぬな、と言ったのは彼だ。そんな彼がこんなところで敗け、死んでしまう――なんて嫌な想像は首を振って否定した。

「まあ簡単に死ぬようなタマではないはずよ、キリハも。
……あら、誰か来るわ」
「ドラコモンかな?」

 ドラコモンというのはこの国の住民で、地下道を作った小竜型デジモンだ。
 竜である故に、不本意だが住民デジモンたちを痛めつけなくてはならない――という過酷な命令から逃げるために作った地下道なのである。
 このドラゴンランドでは竜型デジモンは重視されている。主将、ドルビックモンが竜型であるが故に、同じ竜デジモンは強くなければならないと豪語しているのだ。

 僅かに遥瑠の耳に届く足音は複数あった。こちらに向かっているようだが、敵デジモンにしては軽い足音のような。
 少しばかり警戒しながら、遥瑠は目を凝らす。
 ――しかし、直後に「あっ!」と嬉しげな声を上げた。

「タイキ、シャウトモン!」
「ミチ……?ミチなのか?!」
「テイルモンも!オメーら、なんだってこんな場所に」
「感動の再会ね。
まあ一通り説明するから、落ち着きなさいよ」

 何ヵ月ぶりだろう。
 バグラモンによって人間界へ強制帰還されたタイキとシャウトモンが、ついにデジタルワールドへ戻ってきたのだ。
 思わぬ来訪者に遥瑠は笑顔を見せ、テイルモンも安堵の笑みを浮かべている。

「――そうか、ミチとドラコモンは知り合いだったのか」
「このご時世だからね……見つかるとだいぶ厄介だから、ドラコモンのお世話になっていたの」
「ここならドルビックモンたちも見つけることはないしね」
「ところでタイキ、その花は何?」

 頭に被せた桃色の花を指差すと、タイキは乾いた笑い声を上げた。変装だとリリモンに被せられたらしい。
 タイキたちが戻ってきたのは、ほんの少し前だという。
 ドラコモンに出会い、ドルビックモンに挑戦するキリハに再会し――バグラ軍から逃げ、今現在に至る。

「ふぅん。来て早々大変だったってわけね、クロスハートも」
「ああ。……デジタルワールドは今、大変なことになってるんだな」
「タイキたちが強制送還された後、七将軍は現れるわ命狙われるわで――ね。
でも戻ってくるって信じてたよ。……おかえりなさい。タイキ、シャウトモン」
「うん――ただいま」

 タイキが戻って、遥瑠は心底安心した。
 ……これですべてを任せられる。




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