ドアの開閉の音で目が覚めて、サイドテーブルに置いている携帯で時間を確認した。
深夜1時32分。目を閉じてもう一度睡眠を促してみるけどそれに反して意識がはっきりしてくる。
こんな時間まで何をしてたの、どこにいたの、誰と一緒だったの。きっと私は聞きたいというよりも、ただ彼を責めたいのだろう。
こんな気分のまま顔を合わせてもろくなことにはならないとわかっているはずなのに、扉の下から漏れる光の方へ足を向けてしまう。
ベッドルームのドアを開けば顔色ひとつ変えないまま「起こした?」なんて言うもんだから理不尽だとわかっているのに腹が立った。
「おかえり」
「ただいま、遅くなってごめんね」
「接待?」
「うん、海外からお客さんが来てたから」
「どこ行ったの?」
「銀座にある料亭と、社長の行きつけのキャバクラ」
庄ちゃんが悪びれもせずにそう言うからなんだか無性に虚しくなった。
ため息を喉元で止めて、じゃあまた寝るからおやすみ、と背を向ける。
彼がなにも悪いことをしていないのは頭では理解できているはずなのに、なぜか思いきりなじってやりたい気分だ。ないものをねだる子供みたいに駄々をこねて困らせたい。キライキライとわざと喚いて泣いてしまいたい。
けどそれが自分のエゴでしかないことをわかっていたし、なにより、これ以上自分の心の狭さを露呈させればさせるほどさっきまで見つめあって話していたのであろう着飾った女性たちと比べられるんだと思うと自分が惨めすぎて悲しくなった。
「おやすみのキスは?」
「しない」
「妬いてるの?」
「…庄ちゃんのそういうとこ、キライ」
背後から抱きしめられて寝室へ戻ろうとしていた足は止めざるを得なくなった。
彼の真っ白なシャツからは香水とタバコとアルコールの臭いがする。
髪や耳にいくつもキスが降ってきて、私は仕方ないふりをしてそれを受け入れていた。
意地でも無反応を貫いてやると思っていたのにうなじに唇が這った瞬間、小さく吐息が漏れてしまう。
予期せず与えられた刺激に小さく震えてしまったことは、きっと気付かれているんだろう。表情は見えないのに体に触れる彼の唇が楽しそうに弧を描いている気がした。
「こっち向いて」
「やだ、眉毛も描いてないもん」
「そんなこと気にしないのに」
もうとうに怒る気なんて無くしているのに妙に突っぱねた言い方をしてみる。
ちょっと抱きしめたら流される女だと思われたくない。それに、こんなに妬いてくれるならたまには接待もいいなぁ、なんてふざけたことを言うこの酔っぱらいの思い通りに機嫌を直してしまうのもなんだか癪だ。
だけどその香水臭いシャツを脱いだら、おかえりのキスくらいしてやってもいいと思う。