「おかえりなさいさんちゃん、遅かったね」
「ただいまあつかれたあ」

へろへろと歩いてくるさんちゃんは、ソファにぼすんとうずくまって動かなくなってしまった。直ぐに今日の晩御飯のカレーを温めなおして、サラダの順番にとりかかったはいいけれどさんちゃんがこんなに疲れて帰ってくるのは珍しいな。器用な人だから、お仕事は上手くやってるみたいだけれど、今日は何かあったのだろうか。冷蔵庫から取り出したレタスを一度戻して、さんちゃんの居るソファに座った。

「夢前君、今日はどういたしました?」
「うーん、特に何もないんだけど」
「だけど?」
「ちょっと用事が長引いただけ」
「用事って……浮気?」
「ばあか」

ごつんと頭を小突かれてそのままさんちゃんは少し皺のついたスーツを着替えにリビングを出て行った。はああもう私の馬鹿。なんですぐこういう事言っちゃうんだろ。多分、本当に何か用事があったのに、それを浮気かなんて言われたら誰だって気分悪いよね。ソファを後にキッチンに立った。カレーは、グツグツと温めすぎて焦げていた。




「カレー、おいしい?」
「うん。おいしーよ」

あんなに焦げていたのに?という言葉を飲み込んでさんちゃんの顔を見つめた。さんちゃんの顔はかわいくって女の子みたいで笑顔がすごく素敵。そこに惹かれて、すぐ好きになっちゃったんだよねえ。スプーンにたっぷりのカレーをすくって頬張るさんちゃんはじっと見つめる私を、怪訝そうに見た。「なに?」「さんちゃんかわいい」「どうもありがと」綺麗に食べ終わった皿を片づけてふたりでまたソファに座った。さんちゃんの少し高い肩に頭を傾けた。嫌じゃないかな?彼の顔をちらりと見るけど、特に何も反応は無く長い睫毛を伏せがちに少し眠そうな顔をしていた。

「眠いの?」
「少しね」
「…ねえ、あのさ用事って」
「……だから、何でもないってば。浮気なんかしてないから安心してよ」

もう僕寝るね、とするりと私を押し返して寝室に行ってしまった。さんちゃんの背中を見ながら、私はちょっぴり泣いてしまった。


……☆


さんちゃんの帰りが遅くなるのは、あの日からずいぶん多くなった。作った夕ご飯にラップをかける毎日。勝手に涙がこぼれてくるし、いつもひとり夜が寂しくてさんちゃんの帰りを待たずにベッドに入った。もう駄目なのかも。私は、さんちゃんの事だいすきだけど、さんちゃんはもう違うのかも。毎日そんな事を考えてしまって、朝さんちゃんを玄関で送り出す時も、ちゃんと笑えてない気がする。私ばっかり好きなんだなあ。
今日もいつものように、シチューの鍋にふたを閉めて置いておこうとしたら、ガチャリと扉が開く音がした。誰が入って来たかなんてわかりきってるけど、何だか身がまえてしまった。「おかえりなさい、さんちゃん今日は早いんだね」「うん。はいこれお土産」さんちゃんの手には水色の小さなかわいらしい紙袋があった。中から取り出すと、まさか、これ。

「さんちゃん……ずるいよお…」
「ふふ、ごめんね。どこが良いのかとか、どれが良いかとか探してたら、1日じゃ足りなくって。毎晩同僚といろんなとこまわってたんだ。」
「ばか」
「うん」
「いっつも帰り遅くって」
「そうだったね」
「寂しかったよ」
「今日からは真っすぐ帰ってくるよ」
「う…浮気したら、絶対許さないから」
「こっちの台詞だよ」

「こんな給料3ヶ月分の指輪あげるんだから、浮気なんかされたらこっちが困るよ」と優しく笑うさんちゃんに、思い切り抱きついた。小さな小さなシルバーリング。一生大切にする。ありがとう、さんちゃんありがとう。何回も言った。

「えーと、まあ一応、ちゃんと言うね」
「…うん」
「君をずっと、愛していきたい、な」

私も、の代わりにこぼれた嗚咽が止まらなくて、さんちゃんがおでこに短いキスをくれた。
うん、きっと、私達は大丈夫。幸せになろうね。



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