レースカーテンの隙間から射し込む暖かな日差しと爽やかな風が部屋を満たす。
ダイニングテーブルの上に置いたコップから香るカモミールがここち良い。
ソファーに腰掛け、日の光を浴びながら手元の本のページを一枚一枚捲っていく。

リビングには私だけ。
同棲中の彼は、お昼を遠にすぎた今でも隣の寝室で夢の中だ。
普段の休みの日なら朝から出掛けるために起きてくる彼だが、今日はその気配が全くない。
それだけ疲れていたのだろう。

同じ会社で働いているからわかる。
最近の彼は大きなプロジェクトを任されて、寝る間を惜しんで仲間と一緒に働いていたのだ。
その様子は部署が違う私でもわかるくらい忙しそうだった。
そんなプロジェクトも昨日無事に大成功で終わり、彼は帰ってくるなり気が抜けたのかベッドに場に倒れるように寝てしまった。
それか今まで一度も起きることもなく夢の中だ。

テーブルの上のカップに手を伸ばし、一口飲めば口の中でカモミールが香る。
このカモミールティーを見つけてきたのも彼だった。

『名前こういうの好きだよね。』って笑って言いながら私に買ってきてくれた彼を思い出す。

そんなことを考えながら私は本へと視線を戻した。




しばらく本に見中になっていると、カチャっとドアノブの鍵が開く音がして、私は本から顔を上げる。

寝室へと続く扉を見ればゆっくりと開いていくところだった。




「いま何時?」
と、まだ眠たそうに目を擦りながら寝室から出てきた勘右衛門は、私にそう聞く。
「おはよう、勘右衛門。2時を回ったところだよ。」
私がそう答えれば、大きなあくびをしながらソファーの方へと歩いてくる。

「せっかくの休みなのに寝すぎた。」
「仕方ないよ。昨日まであれだけ仕事大変だったんだから。」
「あ、いい匂い。」
ソファーにドサッと腰をおろした勘右衛門がテーブルの上のカモミールティーの匂いに惹かれる。
「勘右衛門がこの前買ってきてくれたやつだよ。飲む?」

と聞けば、
「うーん…いいや。それよりも」
と言いながら彼は私に向かって手招きする。
勘右衛門の手招きを不思議に思いながら、私は勘右衛門との間に空いたソファーの距離をとの距離を詰める。

その瞬間、、
「カモミールティーよりこっちの方がいい」
私の腰へと腕を回した勘右衛門によって、私の体は彼の方へと引き寄せられた。


「か、勘右衛門!」
「あー、落ち着く〜。」
顔を赤くして抗議する私を無視して、肩へと顔を埋めた彼はそう呟く。
「もう〜。」
こうなると何をいっても無駄なのは長い付き合いでわかっているので、勘右衛門に抱き締められたまま私はおとなしくする。
肩口から香る勘右衛門の匂いが心地よい。
なんだかんだ言いながら勘右衛門に抱き締められると私も落ち着くのだ。




「今日はごめんね。出掛けられなくって。」
少しして勘右衛門はそう呟く。
どうやら久々の休みの日にお昼過ぎまで寝ていたことを気にしているらしい。
そんな勘右衛門の背中をポンポンと優しく叩きながら、
「別に私は気にしてないよ、久々にゆっくりできたからね。それにお出掛けは次の休みでもできるでしょ。これからもずっと一緒なんだから。」
私は言う。
私の言葉に驚いたように顔をあげた勘右衛門に、
「ねっ」
と微笑めば、
「もー、名前好き!大好き!」
と勘右衛門は言って、私の肩口にふたたび顔を埋める。
微かに見える耳が赤い。

「名前が彼女で良かった。大好き!」
「私も勘右衛門が大好きよ。」
「次の休みは名前の好きなところ連れてくから考えておいてよ。」
「うん、ちゃんと考えておくわ。」
「明日からまた仕事頑張るから今日は名前に甘えさせてね。」
「もちろん。そのかわり私も勘右衛門に甘えさせてもらうからね。」

私の言葉に「もちろん!いくらでも名前が甘えてくれるなら大歓迎」勘右衛門はそう言って笑う。
「名前大好き!」
彼はもう一度私に愛の言葉を囁いて、私の額へとキスを落とした。








少し冷めたテーブルの上のカップからほのかにカモミールの匂いが香っていた。




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