「留三郎のブァカ〜!!」

今日は私の誕生日。
かなり前から、この日をどう過ごすのか考えていたのに。
ヤツは。
恋人の食満留三郎は、「さっき急な仕事が入った。悪い」とだけメールを送って来たのだ。

『ふざけんな。今日中に来なかったら別れてやる!』

ポチポチと返信を打つ。
送信…しようと思ったが、何故か指が動かない。

「…別れられる訳ないじゃん…」

そもそも、私の誕生日なんて高校時代から最悪だった。
それもこれも同じクラスだった伊作と一緒に保健委員会なんかに三年間も就任したせいだ。
絶対にアイツの不運が移ったに決まってる。
昨年は私が盲腸になって。
一昨年はお婆ちゃんの初七日でお祝いなんて出来なくて。
その前は留三郎が仕事で骨折して入院してて。
その前は…なんてキリがない。

お互いが社会人になってからは、逢う時間が減ってしまった上にこの不運。
神様は私達をどうしたいのだろうか…。

「逢いたいのに…。楽しみだったのに…。留のバーカ」

携帯に向かって呟く。
思わず涙で滲んでしまう。
高校からの関係も、もう終わり?
こんな事で嫌いになんかなりたくないのに。
携帯を握ったまま、膝を抱えて顔を埋める。
このまま大泣きして眠ってしまおうか、なんて考えていたら。

「名前〜!悪い!遅くなった!」
「……留?」

涙でグショグショだったけど、本当に彼なのか確認したくて顔を上げる。

「なんだよ、その顔。泣いてたのか?」
「だって…、急に仕事って、悪いってぇ…っ、グスッ」
「あのな、誰も『行けない』なんか言ってねぇだろうが?」
「でも、遅れるとも書いてなかったもんっ」
「〜〜…あー、それは悪かった!急いで打ったから言葉足らずだったな…」

未だグズる私に、頭をガシガシ掻きながら謝る彼。
本当に本物だ。

「実はな、コレが遅れててさ…」

そう言って、留は私の左手を取り、ポケットから出したモノを薬指に入れた。
それは小さなダイヤが着いた可愛いシルバーリング。

「何の不運だか知らないが、店に取りに行ったら『まだ届いてない』とか言われてさ。仕方ないから、取引先に電話してもらって、宅配業者と問合せ番号調べてもらって、そこに俺が取りに行ったんだ。…今日中に間に合わないと思ってあんなメール送ったんだけど…、悪かったな」

私の頭をくしゃりと撫でて。
優しく微笑んで見つめてくる。

「…いい加減ケジメ付けようと思って…、その…」
「…うん」
「名前。俺の側にずっと居て欲しい。笑って欲しい。幸せにしたい。…結婚してくれるか?」

顔を真っ赤にして真っ直ぐに見つめてくる彼。
普段の彼もこんな彼も大好きで。
彼が居たら、不運でも不幸にはならないと思う。
私の答えは決まってる。

「うん…。貴方と幸せになりたい。ずっと一緒に居たい!」

嬉しくて、彼の首に抱きついて。
溢れる涙が止まらなくて、彼の肩を濡らしてしまう。
それでも、離さずきつく抱き締め返してくれる。

「…ありがとう、名前。俺を選んでくれて」
「私こそ。あの時、告白してくれてありがとう。…それから、」
「それから?」
「私の誕生日を今までで一番素敵な日にしてくれてありがとう」

そう言うと、抱き締める腕が強くなる。
ぎゅうぅっと音がするんじゃないか、というくらい抱き締めてから離され、見つめあう。

「これからは不運になんか負けないさ」
「…フフっ、そうだね」

やっと私に幸せな時間が来るようだ。
これからは不運と思うより先に、幸せだと思えるはず。
そんな気持ちに変えてくれてありがとう。




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