毎日毎日、慣れないピンヒールで街を歩くのは本当に足に悪いと思う。だけど働く女性の意地だと決めつけて私はその靴を愛用している。変なこだわりなんだろうけど、背伸びしている分なんだかやる気が出てくるからそれでいいと思ってる。虎若も今の私の姿は好きだと言ってくれているので余計手放せなくなってしまったのかもしれない。


「ただいま」
「あ、おかえりー」
「疲れた‥、風呂沸いてる?」
「うん、ご飯も出来てるよー」


そんな私は今、絶賛パソコンに向かって今度部所で取り上げて貰う資料作りに没頭していた。折角、仕事から疲れて帰ってきた虎ちゃんにこういう所を余り見せたくは無いけれど、資料提出が明日なのでどうか分かってくださいと無言で訴えてみる。だけど、虎ちゃんは何故かネクタイを緩めながら私をガン見してくる。どうしたの、と声を掛けようかと迷っていた時、丁度話しかけてくれた。


「‥風呂」
「なに?」
「一緒にはいる?」
「私はもう入ったからいいよー」
「‥そっか」


少し寂しそうな虎若の背中を見送りながら私は作業に戻る。伸びてきた前髪がとても邪魔くさくなってその辺にあったシュシュで括る。噴水みたいになったけれど今はそんなの関係ない。とりあえずてっぺん越えるまでには終わらせたくて必死にキーボードを打つ。そしたら、いつの間にか時間がたっていたらしく、気付けば虎ちゃんが隣に座っていた。居たことすら気付かなかったので肩をビクつかせて虎ちゃんに話しかける。


「い、居たなら…声、かけてよ…」
「気付かないお前が悪い」
「ごめん…」
「飯は?」
「え、テーブルの上にあるよね…?」
「‥‥食べないのかよ」
「先、食べてていいよ?私は後で食べるし…」


心なしか虎ちゃんは不機嫌のようだ。ご機嫌取りをしている時間も無いのでとりあえず早くこの仕事を終わらせてから虎ちゃんを構ってあげようと決めた。多分その頃にはもう寝てしまってるのだろうけど…。


「違う‥」
「なにが?‥って!ちょ、虎若…!重い…!」
「俺の望んだ理想の同棲生活と全然違う!」
「なにそれ…いいから、とりあえず私にのし掛かるのはやめて…!本気で重たい…!」
「お前は、俺と仕事…どっちが大切なんだよ」
「‥‥おかしくない?それ、普通私がいう台詞だよね…?」
「俺は…ちゃんとお前を優先してんだよ…」
「‥虎ちゃん」


俺が帰ってきたのに玄関に迎えにも来てくれないし、おかえりのちゅーもない!最近風呂も一緒に入ってくれないし、飯をあーんして食べさせてもくれない!それからベッドまでお姫さま抱っこをさせてくれない!まず、何故そういう雰囲気にならないんだ!

と、出てくる言葉全てが虎若の欲望だらけだったので言葉が出てこなかった。とりあえず、あれなんだな。虎ちゃんは私とイチャイチャしたいということで宜しいかな?と聞いてみるとイエス!と一言返ってきた。なぜ英語なのかはよくわからないけれど兎に角、先にこの仕事だけ仕上げさせてはくれないかな?と言ってみるけど、眉間のシワがより深くなったので黙ることにした。


「‥いつ終わるんだよ」
「あと、1時間…くらいかな…?」
「待てると思うか?」
「虎若は出来る子だと私は信じています」
「お前は俺の母ちゃんかよ…まあ、別に好きにすれば?その代わり、俺も好きにするから。」
「好きにって…何するの?」
「癒しと快感を求めて」
「‥イヤらしい事はしないでください」
「約束は出来ない」
「もう何でもいいからご飯食べてきなよ…」


その間に出来るだけ終わらせとくから、なんて言ってみたけど終わるはずがない。とりあえず切りがいい所まで終わらせて朝早く起きて時間作ってその時やろう。そうしたら今からの時間はこの我が儘大王を構えるだろうから。


「同棲している男女は普通、あーんして飯を食べ合うらしい。」
「それどこ情報?誰に聞いたの?」
「団蔵」
「馬のいう事なんて真に受けないでよ」


全く…団蔵はいつも虎若に変な事を吹き込む。そして純粋な我が彼氏はそれをよく信じ込んでしまう。信じるのもどうかと思うけど、やはり吹き込む方が悪いと思う。だから今度、団蔵に会うときがあったならば一発思いっきり殴っておこうと私は決意した。


君と二人で愛しのシャングリラへと赴こう




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