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報告書

黒子テツヤによる火神大我についての観察中間報告及び考察


四月某日。
誠凛高校入学、男子バスケットボール部に入部。
相変わらず影が薄く誰からも認識されていなかった僕は、彼と出会いました。
恵まれた体格に負けん気の強さ。
しかも帰国子女らしく、バスケの本場であるアメリカ人顔負けのバスケの技術。
彼なら、もしかしたら彼らに勝てるかもしれない。
そう思えたのです。

今日も練習をしています。
この学校のバスケ部は帝光とは全く違う。
仲間を意識し、チームワークを大事にするとても良いチームです。
最初は周りを圧倒して一人でバスケをしようとしていた彼も、連携をとれるようになってきました。
彼はよく笑い、よく食べ、そしてよく寝ます。(でも授業中はやめた方がいいと思いますが…。)
食べることに至っては、それはもう、尋常ではないほどです。
毎日のように一緒に帰って(僕がいることに気付かずに、あとで彼が吃驚していますが)マジバでハンバーガーを山ほど食べています。
食べる、というよりかは食らっているの方が表現が正しいでしょうか。
ただ、食べ方があまり綺麗ではなく、食べカスをこぼしたり、口の周りにものがついていたりととても可愛らしい一面を持っています。
本当に、試合中には考えられない顔です。
少し幼い仕草が多く、素直で不器用な人です。

彼はよくダンクをします。
このスポーツの花形でもあるそのシュート方法は僕にはできないもので、それ故に羨ましくもあり恰好良く見えます。
力が強く、彼がダンクをすると新設校で新しいはずの体育館のゴールが少し軋んだ音を発します。
体力もありますが、彼も一応普通の高校生だから体に無理をさせているときもあるようです。
負けず嫌いでバスケがとても好きな彼はそれでも練習をしようとして監督によく怒られています。
僕も無理はしてほしくないと思うのですが、彼が一番輝いて見えるのはバスケをしている時なので、練習姿を見られるのは少し嬉しかったりします。
でもやっぱり無理はいけませんよね…。
最近は彼の呼吸に合わせてパスを出せるようになってきました。
どんなパスでも彼が取ってくれる気さえします。
いや、実際先輩たちでも取れなかったパスをすぐに取れるようになっていしまいました。
実は努力家で、人が見ていないところで練習していることも知っています。
そんなところも含めて、僕は彼を尊敬しているのです。

彼は最近、よく僕に話しかけてくれるようになりました。
前はあまり気付いてくれなかった僕を見つけて、今日も彼は笑いました。
無邪気な笑みは彼にとてもよく似合います。
その笑顔を向けるようになったのも最近なのですが。
そして僕はその度に胸が高鳴ってしまうのです。
どうしたらいいのか分からなくなって、何故だか無性に逃げ出したくなるのですが、それと同時にもっと見ていたいという思いもあるので結局いつも彼と一緒にいます。
彼は勉強が苦手で、特に国語は壊滅的です。
故に、国語が得意な僕のところに度々課題を持ってきます。
課題、といってもクラスに出されているものではなく、彼にだけ特別に出されているものです。
これは現国と古典の先生が結託して、彼の国語の成績をどうにかしようと考えて作られたものらしいのです。
勿論、僕から見ればそう難しくなさそうな内容なのですが、彼にとっては難題らしくいつも頭を抱えています。
僕もどう教えれば彼が分かりやすいのか考えて考えて、やっと理解してくれたときにはそれはもう小躍りでもしてしまいそうな勢いでした。
いや、実際には踊ってはいませんが。
この前のテストで、彼は緑間くん特製のコロコロ鉛筆を使ったようで、国語だけすごく突出した点数を取っていました。
その後彼は何故か泣いていましたが…。
僕は少し緑間くんに負けてしまったような気分になりました。
ちょっと悔しかったのです。


さて、春から彼と過ごしてきて、僕自身も少し変わってしまったようなのです。
頑張っている彼に触発されて、自分からドリブルをしたりシュートを打ちたいと考えるようになりました。
自分の特徴を如何に長所にできるか、一生懸命考えて新しく作り上げた技もあります。
少しでも皆の役に立てるように、という考えは昔から変わっていませんが、そのために自分がそんな目立つことをしようと思ったのは初めてです。
それと、もうひとつ。
僕はこのチームが好きです。
先輩方が、監督が、同輩たちが大好きです。
でもそれ以上に。

「彼」が好きだということに気づきました。

前に挙げた人たちとは違う、好き、らしいのです。
僕は戸惑っています。
どうしてこうなったのかは自分では分からないので恐らく彼にも分からないでしょう。
抑えきれないこの好意を僕はどうすればいいのでしょうか。
なんせ、こんな気持ちになったのは初めてなので分からないことだらけなのです。
気付くと僕は彼を目で追ってしまうようになってしまいました。
視線を送る僕に気付いて彼はまた話しかけてくれます。
何か話をしなくては、とは思うのですが彼が興味を持てる話とは一体何なのか、いちいち考えてしまう。
まぁきっとバスケのことというのが一番簡単な話題なのでしょうけれど。
もっと彼のことが知りたい。
それが今の僕のささやかな願いだったりします。
彼にも僕のことを好きになってほしいだなんて、そんな大それたお願いはしませんが、もしそうなれたらどれだけ良いのでしょうね。

結論を言いましょう。
僕は彼と同じ部活で、同じクラスで、毎日を過ごしています。
「君」が、大好きです。



「…以上で報告を終わります。」

寒さに鼻の先と頬を染めつつ、黒子が話を切って見上げた。
その視線の先にはもうすっかり日が落ちて暗くなってしまった空が広がっている。
部活が終わり、帰宅途中。
いつものように二人で並んで帰っていた黒子が突然切り出した話に、火神は驚いていた。
「今から僕の観察結果及び考察を聞いていただけますか。」と言われて、わけも分からぬままずっと長々しい話を聞いていたのだ。
こいつはいきなり何を言い出すのか、と言ったところだろうか。
黒子とはまた違った意味で頬を染めるその背の高い男は、それがばれない様にとマフラーに顔を埋めた。

「どうですか?」
「どうですかってお前…いきなりなんなんだよそれ。」

混乱する火神に黒子はクスリと笑って、それから彼の前に回りこんだ。
立ち止まった二つの影が、街灯に照らされて揺らめいている。
火神は息を呑んで珍しく見せる黒子の笑みを見つめた。
いつも無表情で(試合のときはよく表情を変えるけれど)あまり内心を見せない黒子のふわりとした笑顔が、可愛いと思ってしまった自分がいることに吃驚してしまった。

「僕は人に伝えるのが苦手なので…今まで思ったこと、感じたことをそのまま言わせていただきました。」
「はぁ…。」
「つまり、告白のつもり、なんです。」

黒子の頬の赤みが増した。
それを見て、火神は自分の心臓が大きく脈打ったのを感じていた。
つまりは一体どういうことなのか、それは本人が一番良く分かっているだろう。
それを認めていいものなのか、その迷いが彼に次の言葉を紡がせないでいた。
だって自分は男で、目の前にいるのも男で、しかもチームメイトだ。
どうしたものかとため息をつくと不安そうな顔をした黒子とばっちり目が合ってしまった。

「あの…もしかして僕のこと、気持ち悪い…とか…。」
「あ、いや、」
「そうですよね…いきなり…」
「そ、そんなことねぇよ!」

存外、大きな声が出た。
黒子は吃驚したような顔をしているが、今一番吃驚しているのは間違いなく火神だ。
しかし、ここまできてしまっては言わないわけにはいけないだろう。
引き返せない状況に彼は決心して深めに息を吸い込んだ。
鼓動がうるさい。
落ち着け自分、と暗示をかけながら真っ直ぐに彼を…見つめることはできなかった。

「…気持ち悪くなんか、ねぇよ。」
「……。」
「お前の話聞いて思ったんだけどさ。」

「…俺も、お前のこと好き、かも…?」

黒子の沈んでいた表情が一変、今度はもっと顔を赤くして、恥ずかしいのかマフラーに顔を埋めた。
その様子に今度は火神がクスリと笑った。
こうして見るとやはり黒子が可愛いと思えてきて、その感情は実はもっと前からあったようで。
存外、自分も早い時期からこいつのことが好きだったのかもしれない、と火神は思った。

「じゃあ…返事はOkということで…いいんですね?」
「おう。」

マフラーに隠れて見えない黒子の口元が緩んでいるようだ。
ほわり、と息を吐き出した黒子がもじもじと小さな声でこう言った。

「では、火神くん。付き合うのですからさしあたって、」

そこで、手を差し出す。

「手を、繋いでいいですか?」

握った黒子の手は、思っていたより温かかった。







…以上が僕の中間報告及び考察です。
高校生活は後二年もあるのですから、引き続き観察を続けていきたいと思います。
もっとゆっくり、彼のことを知れますように。

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そんな告白も、お前らしい


ライオンと影ぼうし」提出
up:20120822



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